マンU監督就任。変身したファン・ハールは香川真司を使うのか?

  • 中山淳●文 text by Nakayama Atsushi
  • photo by Getty Images

 その自信家ぶりは、2002~2003シーズンから2度目の指揮を執ったバルセロナでも変わらず、「それでも自分がこのクラブで最高の監督だと確信している」という捨て台詞(ぜりふ)を残し、無冠のままクラブを去っている。

 おそらく、ファン・ハールから“自信家”という肩書が消えたのは、その頃からだった。バルセロナでの失意を胸に指導者人生初めての休養をとった彼は、1年後にアヤックスのTD(テクニカル・ダイレクター)を経て、2005~2006シーズンの途中から古巣AZの監督に就任。ある意味、そこで自身の指導者キャリアをリセットしたとも言える。

 このAZ時代が、実は現在のファン・ハールの原点でもある。それまで一つのシステムに固執するきらいがあったファン・ハールだったが、AZ時代には4-2-3-1、4-4-2といった複数のシステムを柔軟に使い分け、2008~2009シーズンにはクラブ史上2度目の優勝に導いている。しかも、ファン・ハールが志向していた“ボール・サーキュレーション(ポゼッション)” 重視の攻撃的サッカーではなく、素早いカウンターを多用するサッカーでタイトルを手にしたのだ。

 この時代の経験は、かつての華々しいキャリアをほどよく中和してくれた。その後、バイエルンの監督として再びヨーロッパの表舞台に戻ったファン・ハールは、それ以前よりも引き出しの多いベテラン監督へと進化を遂げていた。初めてヨーロッパの頂点に立ってから20年近くも経過しているのだから、当然と言えば当然だ。

 よって現時点では、マンUで採用されるシステムも、彼が得意とする4-3-3とは言い切れない部分がある。クラブも、潤沢な資金で大物選手を大量補強する準備を進めているだけに、どんなチームになるのかを想像するのは難しい。ただはっきりしているのは、ファン・ハールが現在でも世界屈指の戦術家であることと、もはやかつてのような頑固者ではなくなったということである。

 さて、気になるのは香川真司の来季である。今季はモイーズの下で不遇のシーズンを過ごしたが、再びチームの指揮官が代わったことは、香川にどんな影響を及ぼすのかという点である。

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