A・マドリードCL決勝へ。モウリーニョを追い込んだシメオネの豪腕

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 だが、ブックメーカー各社は、第1戦 を0-0で折り返しても、アトレティコ優位と予想した。実力的に上だと判断したからだ。つまりモウリーニョは、十分に苦戦が予想されていたにもかかわらず、世間からは勝って当然と見られていた。シメオネはその逆。ブックメーカーから優勢を伝えられていたにもかかわらず、挑戦者の側に回ることができた。

 シメオネにしたたかさを感じたのは、準決勝の直前、チェルシーがジエゴ・コスタを獲得したがっているというニュースを受けてのコメントだった。

「アトレティコとチェルシーでは予算規模が違う。私にはそれを止めることができない」

 彼はチェルシーとアトレティコの大小関係を強調した。アトレティコ は小で、チェルシーは大。ジエゴ・コスタの移籍話を通して、結果的に自らの立場を楽にしたのだ。アトレティコは偉大なチェルシーに挑戦する側であること。そして負けられない立場にあるのはモウリーニョであることを世の中に暗に示したのだ。

 シメオネは、自らを思い切った采配ができる挑戦者の立場に置くことができていた。なかなかの切れ者と言いたくなるが、彼の現役時代のプレイを知る者には、それはズル賢い手口に映った。ピッチの上のシメオネをひと言でいうならワル。彼より悪い選手は世の中にいないと言いたくなるほど、そのプレイは狡猾で荒かった。典型的な悪役として通っていた。

 監督としてのモウリーニョもどちらかと言えば、シメオネタイプになる。グアルディオラを善玉とすればモウリーニョは悪玉。悪玉の筆頭だと言いたくなるほど狡猾な采配を売りにする監督だ。善玉には強い。これはハッキリしていたが、同じキャラの相手にはどうなのか。悪対悪。アトレティコ対チェルシーはつまり、監督のキャラ対決こそが最大の見どころだった。

 勝負が見えたのは、アトレティコが1-1になった後だった。劣勢になっても手をこまねていたモウリーニョに対し、シメオネは打って出た。その結果ジエゴ・コスタがPKを獲得し、スコアを2-1とした。

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