PSGリーグ連覇達成へ。パリはサッカーの街になりつつある (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 彼らのなかには、新しくてピカピカのPSGをうさん臭く思う人も多い。パリは住宅価格がどんどん上がり、金持ちの要塞のようになっている。PSGのチケット価格も上がっているから、同じように金持ちだけのクラブになりかねない。郊外に住む若者たちは、パリ都心に持つ最後の根城を失ってしまうかもしれない。現大統領のフランソワ・オランドは2012年にこう語った。「PSGの監督やスポーツディレクターの年収は600万ユーロ(当時のレートで約6億円)だと聞いた。PSGは私も好きなチームだが、監督がそんな給料をもらうほどの成績を残しているのかね」

 しかし国際シンクタンクIRISの所長パスカル・ボニファスは、新しいPSGは圧倒的な人気を誇っていると言う。「数字を見れば一目瞭然だ」と、ボニファスは言う。「スタジアムはいつも満員だ。どの試合でも、ホームでもアウェーでも。こんなことは今までなかった」

 昔のPSGに強いノスタルジアを感じるパリっ子はほとんどいない。外国人嫌いの傾向があったサポーターグループの元リーダーでさえ、イブラヒモビッチがPSGでプレイしていることを誇りに思うと言う。「そんなの、当たり前じゃないか」

 もちろん、外国の金がフランスのフットボールを変えていることには不満も聞こえてくる。しかしパリ以外の地域に住むフランス人も新しいPSGを歓迎していると、ボニファスは言う。まず、カタールのテレビ局がフランスリーグの放映権を買ったことで、フランスのクラブすべてが潤っている。第二に、PSGがアウェーの試合に行くと、イブラヒモビッチ見たさに町じゅうがスタジアムに詰めかける。3つめに、ようやくフランスにチャンピオンズリーグで優勝できるかもしれないクラブが生まれた。国際的な地位の低下を心配している国に、世界で最も人気のあるスポーツで「国を代表する顔」ができたのだ。

 このところパルク・デ・プランスで聞こえる音は、パリ・オペラ座で耳にするような礼儀正しい称賛の声だ。パルクで対立していたブローニュとオートイユというふたつのスタンドは、オーナーたちの作った「ブランドブック」からそのまま取り出した言葉をチャントにしている。「パリは魔法だ!」

 昔のブローニュやオートイユのスタンドにいたフーリガンは、バーでちょっとしたけんかをする程度になった。パリの高級住宅街に住んでいる選手たちは、このクラブに来たことを後悔する理由がない。オランド大統領が課している75%の税金は、クラブが肩代わりしている。

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