PSGリーグ連覇達成へ。パリはサッカーの街になりつつある (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 勝つことがすべてではない。PSGの首脳陣は勝利と同じくらい「ブランディング」に気をつかっている。PSGの明るいオフィスで白いシャツを着て働くおしゃれな男性たち(クラブの新しい「ブランドブック」に載っている)が、PSGの象徴すべきものを示している。ひとことで言えば、PSGはエレガントで美しく、すばらしいクラブでなくてはならない。ちょうどパリの街のように。観客はパルク・デ・プランスで、高級ホテルさながらに迎えられる。

 PSGはスポンサーにも高級ブランドを集めはじめた。パルク・デ・プランスに行けば、若い女性がフェイスクリームのサンプルをくれるかもしれない。ピッチの中では、とディレクタージェネラルのジャンクロード・ブランは言う。「パリの騎士のように、堂々としたプレイスタイルでなくては」

「パリ」というブランドは、PSGという名前をしのいでいる。カタールから来た経営陣が、実質的にクラブの名前を変えてしまったのも納得がいく。彼らはクラブのロゴに修正を加え、「パリ」の文字を大きくし、その下に今までどおり大きなエッフェル塔の絵柄を置いて、さらにその下に「サンジェルマン」の文字を小さく入れた。「これまでパリ・サンジェルマンと呼ばれてきたが、やがてパリと呼ばれるようになるだろう」と、ブランは言う。

 パリのクラブは「世界のスポーツ界で10本の指に入る存在になる」と、ブランは語る。「私たちが基準として考えているのはレアル・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドだが、ほかにもニューヨーク・ヤンキースやロサンゼルス・レイカーズ、イタリアのフェラーリなども入ってくる」

 PSGがそのレベルに達するのに時間はかからないと、ブランは思っている。「世界はデジタル化され、情報が一瞬にして駆けめぐる。レアル・マドリードが世界でも偉大なクラブになるまでに50年かかった。今なら5年ですむ。ズラタンが(3月のバスティア戦でやったように)超人的なヒールキックでゴールを決めれば、その映像は10秒で世界に広まる」

 だがクラブの「高級ブランド化」の話は、PSGの古いファンをいらつかせている。古くからのファンがすべて消えたわけではない。試合のある夜にはパルク・デ・プランス周辺のおしゃれな通りが、貧しい郊外から来た若者で埋まる。ビールを飲み、マリファナを吸い、警察官に見張られている。

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