仏リーグ連覇目前。世界一のクラブを目指すPSGの野望 (3ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 つい最近まで、ほとんどのパリっ子はPSGに目もくれなかった。たとえフットボールの存在を知らなくても、パリは一生過ごしていける街だった。郊外ならともかく、ペリフェリック(環状高速道路)より内側の都心でPSGのユニフォームを着ている人はめったに見かけなかった。

 フットボールはパリで最も人気のあるスポーツでさえなかったかもしれない。ラグビークラブのスタッド・フランセのほうが、PSGより人気があった時期もある。しかし、PSGのファンふたりが2006年と2010年に暴力で死亡した事件が空気を変えた。警察が介入し、フーリガンのグループは解体された。5人を超えるグループが一緒にチケットを買うことは禁止され、座席は無作為に割り当てられるようになり、一部のファンはスタジアムへの出入りを禁じられた。

 あるファングループの元リーダーはこのときPSGに起こったことを、1990年以降にイングランドのスタジアムで進んだ浄化作戦になぞらえた。「パルクでは暴力が減った」と、彼は僕に言った。「でも、雰囲気がイングランドみたいになった。僕は昔の感じのほうが好きだったな。出入り口に催涙ガスが立ちこめていてもね」

 パルク・デ・プランスがおとなしくなったのは確かだ。3月にチャンピオンズリーグでレバークーゼンに勝った試合では、数の少ないレバークーゼンのファンのほうがホームのサポーターより声が大きかった。PSGは前大統領のニコラ・サルコジが進めた秩序強化策の数少ない成功例なのかもしれない。

 サルコジはPSGをサポートしている。彼の側近が最近、PSGのカタール人経営陣をいらだたせた。サルコジが2017年の大統領選挙で大統領職に復帰できなかったら、PSGの会長に就任できないかと打診してきたからだ。

 しかしサルコジが、PSGの刷新を後押ししたことはまちがいない。フランスの大統領は誰でも、カタールのエリート層と知り合いになりたがる。カタール人のフランスへの投資はどんどん増えている。

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