アンチェロッティが語る「レアルで自分がやるべきこと」 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 国が変われば、そこに適応することは当たり前の話にも聞こえる。ところが、それができない指導者や選手は少なくない。

「簡単なことじゃない」と、アンチェロッティは言う。「特にイギリスから他国に移籍する選手には、むずかしい部分がある。イアン・ラッシュやマイケル・オーウェンのことを思い出す」。ウェールズ人のストライカーだったラッシュは1987年にイタリアに移籍したが、成績が振るわず1年で帰ってきた。そのときの名言が「まるで外国に住んでいるみたいだった」というものだ。オーウェンもレアル・マドリードに移籍して、1年で帰ってきた。イギリスの料理と天気が恋しくなったらしい。

 ではウェールズ人のガレス・ベイルは、レアルにどう適応しているのか。「ベイルはほとんど問題ない。謙虚な男で、周りにうるさく言わない。多くのことを求めない」と、アンチェロッティは言う。スペイン語は大丈夫なのか。「最近、話すようになってきた。私の仕事は彼がピッチでチームメイトとうまくやれるよう手助けすることだ。英語を話せる選手もたくさんいるし」

 そのひとりがクリスティアーノ・ロナウドだ。ポルトガル人の彼はレアルで最高の選手だが、扱いやすい人物ではない。クリスティアーノ・ロナウドはチームに、自分が望むようプレイしてほしいと思っている。そんなビッグな選手に、アンチェロッティはどう接しているのか。

「私の仕事は、選手をうまく動かすことだ。その意味ではクリスティアーノ・ロナウドも、ダニエル・カルバハルやアルバロ・モラタ(どちらもレアルの若手選手)もまったく変わりはない」。それどころかアンチェロッティに言わせれば、スーパースターのほうが監督としては扱いやすいのだという。「たいていは、そういう選手のほうがプロ意識が高いからだ。クリスティアーノ・ロナウドは本物のプロだ」。アンチェロッティは頬を膨らませて大きく息を吐く。クリスティアーノ・ロナウドへの称賛のしるしだ。彼は自チームのスターに余計な干渉をしなくてすんでいることに感謝していた。「選手のプライベートな部分にはあれこれ言いたくない。私は父親でも兄でもない」

 アンチェロッティによれば最近のフットボール選手は、彼自身がプレイしていた80年代とは比べものにならないほどプロ意識が高い。今はごく普通の選手でも「私生活に気をつかい、ライフスタイルを考えている」。それに、ごく普通の選手でも昔ほどパスタを食べない。

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