ミランの監督に就任したセードルフは、新しい儀式を取り入れた

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 だが、この試合でもプレスは長くは続かなかった。クリエイティブなブラジル人選手のカカとロビーニョは、ひたすら走り回るようなプレイはためらうかもしれない。カカは「僕はディフェンスはしない」と語ったこともある。

 カカとロビーニョは、セードルフの新しい哲学の下で長くはもたない可能性がある(少なくとも、ふたりが一緒にピッチに立つことはなくなるかもしれない)。となれば、ふたりのブラジル人選手より若く、きついプレイもいとわない本田にチャンスが巡ってくるだろう。

 しかし新しいミランのカギを握るのは、やはりマリオ・バロテッリだ。セードルフのミランが目指すもののひとつは、この鋭いストライカーに速いボールをできるだけ多く供給することだ。

 バロテッリはセードルフの就任を喜んでいるようだ。ベローナ戦でPKを決め、ミランにやや幸運な1-0の勝利をもたらしたとき、バロテッリはベンチの新監督を指さし、ほほ笑んだ。セードルフもバロテッリを指さし、笑みを返した。「バロテッリはいい青年だし、大変な才能の持ち主だ」と、セードルフは後に語った。「彼の成長を手助けしたいと思っている」

 セードルフの監督就任についてもうひとつ興味深いのは、彼がヨーロッパのフットボール界に数えるほどしかいない黒人監督のひとりになったということだ。黒人への差別はどんな場合でも正当化されるものではない。しかしセードルフとバロテッリの間に生まれつつある強い師弟関係は、黒人選手が日ごろから「差別されている」と感じていることを示すものでもある。一部の黒人選手は、黒人の監督なら自分をもっと理解してくれると感じているかもしれない。

 この原稿を書いている時点(21節終了時点)で、ミランは9位まで順位を上げた。もちろん、監督経験のないセードルフが成功する保証はない。成功を疑っていない人物は、おそらく世界にひとりだけだ。

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