なぜこれほど多くのサッカー本が出版されるようになったのか (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 授賞式が始まるころ、僕は自分に言い聞かせた。「僕に賞は来ない。僕には来ない」。ところが、僕は賞を取ってしまった。賞金は3500ポンド(当時のレートで約60万円)。金のない人間に起きてはならない幸運だった。僕はその日の午後を近くのパブで、ニック・ホーンビィと、やはり僕にとってのヒーローであるスポーツジャーナリストのヒュー・マキルバニーとともに過ごすことができた。最終電車でヘイスティングズに帰ると、一緒に研修を受けている仲間たちがパブにいた。僕はもらったばかりの賞金から40ポンド(当時のレートで約7000円)をパブに前払いして、生まれて初めて朝まで飲んだ。

 2013年の「ウィリアム・ヒル・スポーツ・ブック賞」の賞金は2万5000ポンド(約420万円)だった。スポーツ本というジャンルの価値が、20年前に比べて7倍に増したことを意味しているように思える。

 たぶん、だいたいそんなところだろう。


■サイモン・クーパーが選ぶスポーツ・ライティング歴代ベスト10
・C・L・R・ジェイムズ『ビヨンド・ア・バウンダリー(壁の向こう側)』(1963年)
・ジョージ・プリンプトン『ペーパー・ライオン』(1965年)
・フレデリック・エクスリー『あるファンの遺書』(1968年)
・イーモン・ダンフィー『オンリー・ア・ゲーム?』(1976年)
・ゴードン・フォーブズ『ア・ハンドフル・オブ・サマー(ひと握りの夏)』(1978年)
・ピート・デイビス『燃えつきるまで』(1990年、邦訳・図書出版社)
・ニック・ホーンビィ『フィーバー・ピッチ』(1992年、邦訳『ぼくのプレミア・ライフ』新潮文庫)
・デイビッド・ウィナー『オレンジの呪縛』(2000年、邦訳・講談社)
・マイケル・ルイス『マネー・ボール』(2003年、邦訳・ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
・ジョン・カーリン『インビクタス~負けざる者たち』(2008年、邦訳・NHK出版)

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