冬休みに読みたいすばらしき「スポーツ本」 (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 イギリスのスポーツ・ライティングが成熟するには、ニュージーランド人の手を借りなくてはならなかった。ジョン・ゴースタッドは1985年、何を思ったのか、ロンドンの書店街として知られるチャリング・クロス・ロードからちょっと脇に入ったカクストン・ウォークにスポーツ専門書店「スポーツ・ページズ」を開いた。

「初めは本当にひとりでやっていた」と、ゴースタッドは僕に語ったことがある。「まあ、夢があったからね」

 意外にも「スポーツ・ページズ」はうまくいった。やがてゴースタッドはブックメーカーのウィリアム・ヒル社と手を組み、スポーツ・ライティングの賞を創設した。「ウィリアム・ヒル・スポーツ・ブック・オブ・ザ・イヤー賞」は長年にわたって、彼の小さな店で授賞式を行なってきた(残念ながら店は2006年に閉じてしまったが)。

 やがて、イギリス人の最も好きなスポーツであるフットボールをテーマにした本がメジャーになりはじめる。

 ニック・ホーンビィの『フィーバー・ピッチ』(邦訳『ぼくのプレミア・ライフ』新潮文庫)は92年にウィリアム・ヒル・スポーツ・ブック賞を受賞し、フットボール・ライティングというジャンルを切り開いたとよくいわれる。しかしゴースタッドは、ピート・デイビスが90年に出版した『燃えつきるまで』(邦訳・図書出版社)の重要性を指摘する。この年に開かれたワールドカップ・イタリア大会のイングランド代表を描いた作品だ。

「デイビスがいたから、ホーンビィが出てこられた」と、ゴースタッドは言った。「デイビスの本は、僕の書店がやるべきことも教えてくれた。熱いファンが愛するフットボールについて、面白い話を大きな声で語れる場を提供することだ。そんな話は誰も聞いたことがなかった」

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