バルセロナの12歳・久保建英に今必要なこと

  • 山本美智子●取材・文 text by Michiko Yamamoto photo by AFLO SPORT

 今の久保くんと同じ12歳でスカウトされてバルセロナにやってきたアンドレス・イニエスタは、今のマシアにいる全選手の憧れだが、そのイニエスタに「ユースからトップチームに行くための秘訣は?」と聞いたことがある。

 イニエスタは、一瞬、考えてから答えた。「努力し続ける才能があること」と。

「才能だけでは、上のカテゴリーにはあがれない。そのプラスアルファがないと。トップに行くには、多くのことを乗り越えていく必要があるから」

 それは周囲の雑音だったり、プレッシャーだったり、自分との戦いだったりするのだろう。イニエスタの言葉には、重みがあった。イニエスタ自身も、故郷から遠く離れ、宿舎で枕を濡らした日々があったのだから。

 今、いちばん怖いのは、日本での「久保くんブーム」が本人に悪影響を及ぼすケースだ。バルセロナで見ている限り、地に足をつけて歩いているが、彼はまだ12歳なのだ。

 一昨年、日本のテレビ局がバルサから許可を得て、久保くんが出ている試合の撮影を行なったが、そのテレビ局はクラブとの約束を破り、決められた時間を延長して久保くんを近くでずっと追っていた。そのとき、久保くんは試合で調子を出せず、活躍できなかったという。また、そのショックを引きずり、「本人が立ち直るのに1週間かかったんだ」と当時のコーチスタッフが、複雑な表情で話してくれたことがある。

 現在12歳の久保くんの才能を疑うものは、クラブで誰もいない。「和製メッシ」の名前にふさわしいだけの実力が彼にはある。その力を磨き続けていくために、本人の努力が必要なのは当然だが、それを取材するメディアには、その成長を見守る"大人の対応"が求められる時期が来ているのではないかと思う。

 クラブは、トップデビュー前の選手達を必死に守ろうとしている。通常の練習は、マスコミどころか、子ども達の両親でさえ、気軽には見せてもらえない。親が場外から声をかけることが、時に子どもにとって不要なプレッシャーとなるからだ。

 まだ発展途上にあるひとりの選手を、アイドルのように取り上げるのではなく、冷静に、将来を見据えた視点で見守る。成長する必要があるのは、久保くんだけではないのだ。

久保くんのゴールシーン動画はこちら>>FCバルセロナ公式

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