2013.09.28

バルセロナの12歳・久保建英に今必要なこと

  • 山本美智子●取材・文 text by Michiko Yamamoto photo by AFLO SPORT

「学校の授業にきちんと出席して、いい成績をとることが義務付けられているの。毎週、クラブに成績表を提出しなければいけなくて、その成績次第では、その週末の試合に出してもらえないのよ」

「あとはね」と彼女は続けた。「たとえばコーチが誰か他の大人と話をしているとするでしょ。そうしたら、コーチはもちろん、コーチと一緒にいる人にも、きちんと挨拶しなくちゃいけないのよ」

 そういった基本的なしつけも徹底されることに彼女は驚いていた。「それから、ユニフォームの上着を必ずショートパンツの中に入れなくちゃいけないから、これからは洗濯した後に乾燥機にかけられない。シャツが縮んだらパンツの中に入れられなくなるでしょ」と最後に母親の顔になったのが、ご愛嬌だった。

 久保くんは「スペイン語を流暢に話す」と日本で話題になっているようだが、話すだけではない。このお母さんの息子と同じように地元の学校に通い、授業を理解し、練習ではチームメートと冗談を言い合い、普通に会話ができる。それは、彼の年代であれば、どこの国の出身であっても当然求められるものなのだ。

 細かいことを言えば、スペイン語だけでなく、地元の公用語、カタルーニャ語の理解も求められる。多くのチームメートはカタルーニャ語を話すし、授業の大半もカタルーニャ語で行なわれるからだ。

 マシアの関係者は口を揃えて言う。「マシアは、選手養成所ではない。ここは『人間育成の場』なのだ」と。

 それはなぜか。多くの若きホープたちが夢破れて、プロになれずに散っていく現実があることを、彼らは身に染みて知っているからだ。ユースでどんなに天才と呼ばれても、バルサのトップチームどころか、サッカーを生業(なりわい)として成功を収めることができる選手はほんのひと握りなのだ。

 だが、プロ選手として生き残れなかった者を「ドロップアウトした」と世間が後ろ指を指したとしても、そこで「人生のすべてを賭けてサッカーをやってきたのに、もうだめだ」と自暴自棄にならず、そこから他の道を模索できる人間性を身につけられるように、そして「自分はマシアでやってきたのだから」と自信を持って人生を歩んでいけるように、マシアは教育を大切にしている。まさに「人間教育の場」としての育成組織なのだ。

 現在、トップチームのバルセロナに籍を置いているが、昨季はミラン、今季はアヤックスにレンタルされているボージャン・クリキッチ(23歳)もまた生粋(きっすい)のマシア育ちで、ユースレベルでメッシの記録を次々と抜いてきた才能豊かな選手だ。それだけの実力がありながら、現在はバルサのトップチームで居場所が見つからず、レンタル移籍先のアヤックスで奮闘している。だが、そこで彼は腐っているわけではない。ひたむきに上のレベルを目指し、今も努力を続けている。

 今季もバルサで出場しているセスク・ファブレガスやジェラール・ピケにしても、小さい頃からマシアで育ってきたが、メッシの同年代であるふたりは、居場所を求めて一旦バルサを出ることを選んでいる。そして、ピケはマンチェスター・ユナイテッド、セスクはアーセナルで経験を積み、その後バルサに戻って成功を収めている。