マンU監督モイーズは彼なりの選手との距離を見つけなくてはならない (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 ジャーナリストが「心理戦」について書くのは、彼らの目に見える監督の仕事がそれくらいしかないからだ。

 監督は心理学者というより、細かいところに気をつかうオタクというべきだろう。最も大切なのは、トレーニング場の見えないところで監督とスタッフが行なっている細かな作業だ。

 たとえばファーガソンのアシスタントが、まだフェイントのパターンを数えるほどしか持っていないクリスティアーノ・ロナウドに新しいフェイントを教える。モイーズのスタッフは選手の体力テストをするときに、結果を正確に比較するため、これまでのテストのときと同じシューズをはいていることを確認する。あるいはモイーズは、次の対戦相手のビデオを分析するのに、午後のほとんどを使っている......。僕たちがトレーニング場を見ることはあまりないが、選手と監督はキャリアのほとんどの時間をそこで過ごしている。

 もちろん、人事管理も重要だ。いくつものクラブを渡り歩いた元選手が僕に語ったように、プロのフットボールは「チームの形態をとっている個人競技」だ。選手が最も関心を持っているのは、自分のキャリアである。

 だからといって、監督は個人主義を排除しようとしている独裁者だというイメージも、たいていは誤りだ。選手を本当の子どものように扱うことを許された監督は、おそらくファーガソンが最後だろう。他の監督がスター選手と接するときは、たいてい「交渉」になってしまう。スベン・ゴラン・エリクソンは選手をスーパースターとして扱い、ジョゼ・モウリーニョは友人のように接している。ユナイテッドに移ったモイーズは、彼なりの選手との距離を見つけなくてはならない。

 試合後の記者会見で僕たちが目にしているチャーチルのような指導者は、監督の本当の姿ではない。そのとき彼はチームのPRをしているだけだ。監督がやっている本当に重要なことは(重要なことをやっているとすればだが)、僕らの見えないところで行なわれている。たとえば、月曜の午後にビデオルームにこもりきりになっているときだ。
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