脱税スキャンダルはメッシの評判を落とすことになるのか (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 だが先月、メッシの経歴に汚点がついた。彼と父親が400万ユーロ(約5億2000万円)以上を脱税していたとしてスペインの税務当局に告発されたのだ。メッシ側は疑惑を否定しているものの、メッシの名はアップルやスターバックス、グーグルやアマゾンと同じように、税金逃れで評判を落とす「グローバルブランド」になってしまうのか。

 優れたフットボール選手には2種類いる。生まれついての天才と、努力して名選手になったタイプ。メッシはその両方だ。彼はアルゼンチンで「ピベ」と呼ばれる天才ドリブラーの系譜に連なる選手だ。そしてバルセロナの素晴らしいユースアカデミー「マシア」が、ヨーロッパ型のパスゲームを彼に教えた。

 最近では偉大なアスリートになる若者は、一般人の送るような暮らしとは縁のないまま育つ。スポーツに集中できるような環境が整えられ、周囲のこまごましたことは家族や仲間たちが全部やる。

 彼らはお金の管理を別の誰かに任せる。その人物は専門知識よりも、人柄や仲の良さで選ばれることが少なくない。メッシの父は脱税疑惑についてこう語った。「何かの間違いだ。会計士と弁護士に話をして、きちんと解決させる。私には何がどうなっているのかわからない。この件にじかにかかわっているわけではないし、何よりアルゼンチンに住んでいる」

 告発状によればメッシ家は、肖像権使用料をウルグアイやベリーズといったタックスヘイブン(税金を支払う必要がないか、税率がきわめて低い国や地域)にある企業に振り込まれるようにし、「相当額の収入」にかかる税を逃れていたとされる。メッシ父子は9月に法廷に出頭するよう命じられたと報じられている。

 しかし真実がどうあろうと、タックスヘイブンの意味を知っているビジネスマンとメッシの間には大きな違いがある。メッシはただのフットボール選手だ。あの少年のような髪形の下に、それほど多くのものが詰まっているとは思えない。

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