サンダーランド新監督がイングランドに波紋を呼んだ理由

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

派手なパフォーマンスは現役時代と変わらない。エバートン戦に勝利して歓喜のガッツポーズを見せたディカーニオ(photo by Getty Images)派手なパフォーマンスは現役時代と変わらない。エバートン戦に勝利して歓喜のガッツポーズを見せたディカーニオ(photo by Getty Images)【サイモン・クーパーのフットボールオンライン】ディカーニオとファシズム~前編

 今年4月、プレミアリーグにひとりの新監督が生まれた。パオロ・ディカーニオ。現役時代はイタリアやイングランドで活躍、闘志あふれるプレイで人気を博したストライカーだった。その後指導者の道に進み、今回、降格圏脱出を図るサンダーランドの監督に抜擢された。その直後から騒動は始まった。

 2000年に出版されたパオロ・ディカーニオの自伝に、イタリア人フットボール選手の彼は「ベニト・ムソリーニに心酔している」と書いている。ディカーニオにとっては、今は亡きこの独裁者が「差しで語り合いたい一番の人物」なのだという。

「ムソリーニの伝記は何十冊も持っている」と、ディカーニオは続ける。「彼は非常に誤解されている人物だと思う」。ディカーニオがムソリーニに心酔している大きな理由は、この独裁者がイタリアを救うために「国をひとつにした」ことだという。

 もちろん、ムソリーニが完璧な人間でなかったことはディカーニオも知っている。「彼は人々をあざむいた。彼の行動は卑劣で、計算づくであることが多かった。だがそれも、もっと大きな目標のためだった。彼は国の命運を握っていたのだから」。ディカーニオは背中と右腕にムソリーニをたたえるタトゥーを入れ、ラツィオでプレイしていたときにはファシスト式の敬礼をピッチで何度も行なった。

 ディカーニオのこれらのエピソードが、先ごろイギリスで微妙な問題になった。プレミアリーグのサンダーランドが彼を監督に迎えたためだ。

 前イギリス外相のデイビット・ミリバンドはサンダーランドの副会長だったが、「新監督の過去の政治的発言」を理由に辞任した。大衆紙のサンも、ディカーニオがファシスト式の敬礼をしている写真を1面に大きく掲載した。

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