2013.03.30

【イングランド】選手はプレイしているクラブを愛しているのか

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 フットボールのカーテンの向こう側をのぞいた人は、そこに特別なものがあるわけではないことを知ってしまう。サンダーランドのファンである別の友人は、仕事でたまたまフットボールについて書くことになり、ある日、まさにこれから試合のピッチへ出ようとするサンダーランドの選手たちのそばにいた。彼らを見て、友人は「なるほど仕事なのか」と気づいた。彼にかかっていた魔法は解けてしまった。

 僕にとってもフットボールは今では仕事だ。2010年、南アフリカのヨハネスブルクで、僕は自分の応援するオランダがワールドカップを手にするかもしれない試合を見ていた。しかし残り5分でスペインのアンドレス・イニエスタが優勝を確実にするゴールを決めたとき、僕の胸によぎったのは安堵感だった。

 試合は延長に入っていたが、マッチリポートを書く記者たちは延長が大嫌いだ。締切はとっくに過ぎており、ロンドンの編集部からはいつ記事を送れるかというメールがひっきりなしに届く。だが、そんなことを言われても書けるわけがない。スコアは同点で、どちらが勝つかわからないのだから。イニエスタは僕の仕事を少しだけ楽にしてくれた。

 それでも僕は、今もフットボールに感謝している。僕がジャーナリズムの世界に入った90年代は新聞の時代に終わりが見えはじめていたが、フットボールの周りにあるカルチャーのおかげで僕は書きつづけてこられた。

 これからも僕はプロ意識を持ってフットボールを書いていきたいと思う。プロ意識というのは、政治記者や保険業界担当のジャーナリストが持っているものと同じだ。そこに愛情があるわけではない。
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