【イングランド】アーセナルは再び頂点を狙える位置に返り咲けるか (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 もちろんイギリスの小さなクラブは、つねに破産の危機にさらされている。しかしそんなときはクラブが債権者と交渉し、負債のほんの一部を払い、なんとか切り抜けてきた。債権者や銀行も、古くから地元で愛されてきたクラブにとどめを刺したくはない。

 こうしてフットボールクラブは、破産しておかしくない状況でも生き伸びていく。まったくもって「持続可能」なのだ。フットボールクラブが消える時代が訪れるだろうかと尋ねると、ガジディスは言った。「そういう時代はすぐには来ないと思う。とくにイングランドでは」

 そんな背景を考えると、アーセナルの倹約ぶりはやりすぎのようにもみえる。もしアーセナルが、大きなフットボールクラブが一般企業と同じくらい弱々しいと思っていたなら、それは誤りだ。

 もちろん、リーズ・ユナイテッドをまねろという意味ではない。リーズは負債をため込んでチームのほぼ全体を売るはめになり、ついにはイングランドの3部に相当するリーグに降格した。アーセナルがやったのは、これとはまったく逆のことだ。フットボール経済についての人気ブログを運営するスイス在住イギリス人の「スイス・ランブラー」の推計によれば、アーセナルの2007年以降の合計収益は1億9500万ポンド(現在のレートで約283億円)で、そのうち1億7800万ポンド(同約258億円)は選手を売ったことで得ている。

「スイス・ランブラー」はブログの中で、「アーセナルは5000~6000万ポンド(約73億~87億円)をキャッシュで楽に払えるのではないか」と書いている。それだけではマンチェスターの2つのクラブに勝てないかもしれないが、今より追い上げることはできるかもしれない。

 アーセナルの選手年俸の総額はこのところ急激に上昇し、昨年は1億4340万ポンド(現在のレートで約208億円)に達した。これは収入の61%にあたる。ガジディスはこれ以上の割合を年俸に使うと「危険領域」に入ると考えている。しかしプレミアリーグの平均では、この数字は70%だ。マンチェスター・シティやチェルシー、マンチェスター・ユナイテッドの選手年俸総額は、アーセナルを優にしのぐ(マンチェスター・シティは2010~11年シーズンに収入の114%を年俸に使った)。

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