【スペイン】監督不在に主力の移籍。好調バルサが抱える不安要素 (2ページ目)

  • 山本美智子●取材・文 text by Yamamoto Michiko photo by Rafa Huerta

 それでも、今回のチャンピオンズリーグのミランとの対戦でビラノバが復帰するとの見込みは外れ、戻ってくる気配はいまだない。

 もしバルセロナが、チャンピオンズリーグ、国王杯と続けてつまずくようなことがあれば、今は黙って見守っているスペインメディアからも、「リモートコントロールの限界」について、監督の不在を問う声があがることだろう。

 たしかに、現時点までクラブと選手たちは監督不在の影響を感じさせず、うまく乗り切っているように見える。メッシは、1試合につき0.82ゴールという驚異的なペースで毎週ゴールを決める荒業を見せ、リーグ戦では14節連続で得点を決めている。また、24節を終えた今、得点80、失点27と攻守のバランスも絶妙だ。さらに得点の内訳を見れば、40点をホーム、残りの40点をアウェーで決めるというブレのない試合運びが目をひく。

 だがその一方で、正GKビクトル・バルデスが来季、残留しないことを宣言しており、メッシの活躍の裏で、アレクシス・サンチェスやビジャなど、思うように得点できずに思い悩むFWも存在する。また、適応に必要以上の時間がかかっているソングなど新加入の選手も抱えており、すべてが順調に進んでいるわけではない。

 今のバルセロナのシステムでは、GKもフィールドプレイヤーのごとく、パス回しに参加する必要がある。攻撃はGKのバルデスから始まる、と言われる所以(ゆえん)だ。バルサはボールを保持した時にその持ち味を最大限に発揮するチームだが、ボール保持率を上げるために、リスクの少ない安定路線を選ぶことはしない。常に攻撃的な姿勢を崩さずゴールを狙いに行く。これはディフェンダーも同様であり、その結果、DFラインは非常に高くなる。

 それはつまり、DFラインの裏を取られる可能性も高くなるということで、GKに求められる集中力は生半可なものではない。そして、バルデスはその集中力および1対1の強さにおいて、群を抜くGKなのだ。彼がいるからこそ、ディフェンスは安心して攻め上がることができる。バルサのGKは、ほかの誰にも務まらないと言われる理由がここにある。

 そして、バルデスの次に大事な二番目の砦、それがセルヒオ・ブスケッツだ。ブスケッツは、「攻」に偏りがちなバルセロナのバランスをとっている「守」の要だ。サイドバックやセンターバックの動きと位置を絶えず確認し、それに合わせて動くことでチーム全体のバランスをとる。言い換えれば、試合の流れと全体像が見えている数少ない選手のひとりだ。

 ブスケッツの能力に惚れこんでいるスペイン代表監督、ビセンテ・デル・ボスケが「生まれ変わったら、セルヒオになりたい」と話したことは、今ではあまりにも有名な逸話だが、クラブレベルであれ、代表レベルであれ、彼のことを知る監督は、誰もが口を揃えてその戦術理解力の高さを絶賛する。「縁の下の力持ち」の役割を背負っているブスケッツは、メッシやシャビのように目立つ存在ではないが、チームメートの誰もが「あのポジションでは彼が世界一」と口を揃える選手だ。

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