【スペイン】 モウリーニョに育成は無理!?ユース組織に課題を抱えるレアルの未来図 (2ページ目)

  • 山本美智子●取材・文 text by Yamamoto Michiko
  • photo by Getty Images

「彼はカスティージャを(2部リーグで)5位か6位にするために頑張るのか、トップチームを助けるのか、どちらかに決めなければならない」

 モウリーニョがBチームに対して抱えている不満は、たとえば、カスティージャのセンターバックが、モウリーニョにとってはサイドバックの特性を持つ選手であること、多くがBチームにいるべきではない年齢で、25歳をすでに過ぎていること、トップチームと同じプレイシステムをとっていないためにトップに昇格させても適合できない、といったことだ。

 また、トップチームにカンテラ育ちの選手が少ないのは、「私だけの責任ではない」とはっきりと否定し、レアルがチャンピオンズリーグを制覇した97‐98、99‐00、01‐02シーズンの決勝を例にあげ、どの決勝でも、レアル・マドリードのカンテラ出身選手はふたりしか出場していなかったことを指摘した。

 その頃のレアル・マドリードは、"ジダネスとパボネス"という政策を掲げており、中盤から前の、いわゆる「金になるポジション」には、ジダンのような実力ある選手を外から獲得し、ユニフォームがあまり売れない、つまり経済的に儲けの出ないディフェンス陣は、パボンのようなカンテラ出身選手を起用しようとしていた。コンセプト自体は非常に良くできており、これが成功していたなら、クリスティアーノ・ロナウドのようなスター選手を抱えながらも、レアルカラーをキープし、コストパフォーマンスもあがるという一石二鳥以上のものだっただろう。しかし、それから12年が過ぎた今、再び、あの頃と同じ会長がクラブを治めているにもかかわらず、当時の政策とはかけ離れたチームづくりが進んでいる。

 先日、この10数年前の政策目標の代表的選手であったパボンが、久々にメディアに登場した。21歳でレアルのトップチームにデビューした彼は、現在32歳になっており、プレイ先のクラブが見つからずにいる。かつてジダンと共にピッチに立っていたパボンはメディアに向かって、「僕よりも必要としている人がいるから、自分の失業保険を受給する権利を放棄することにしたんです」と話していたが、彼のその思いやりのある行為よりも、あのパボンが無職だという事実の方がよほどショッキングであり、ニュースだった。

 決して、過去のレアル・マドリードのカンテラ出身選手のレベルが低かったわけではない。チェルシーのマタやバレンシアのソルダードなど、レアルのカンテラは各ポジションから優秀な選手を輩出し続けている。ただ、トップチームに昇格することは少なく、昇格しても残留することができないだけだ。

 バルサに目を向けると、トップに残留できずに一度は売却したセスク、ピケ、ジョルディ・アルバなどを集めなおす努力をしている。その一方で、レアルが唯一取り戻したのはカジェホンくらいだが、なぜ、マタやソルダードといった選手を補強する方向にいかないのか。そこに外様のモウリーニョが口を出すからだ。

 昨シーズン、カスティージャでは控えの選手がトップチームに昇格し、チャンピオンズリーグ出場を果たした。その選手の代理人はモウリーニョのみならず、ロナウド、ディ・マリア、ペペ、コエントラン、カルバーリョと同じなのだが、それを果たして偶然と考えることができるだろうか。「ひいきに憤慨している」と当時のチームメートはツイッターでつぶやいた。

 また、プレシーズンに多くのカスティージャの選手をトップチームに招集し、モウリーニョが練習を行なったことがあった。カスティージャのトリル監督はその様子を見にやってきたのだが、それに気づいたモウリーニョはトリルを練習場から追い出した。外様のモウリーニョの目には、主家から送られた刺客に見えたのかもしれない。

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