【イングランド】反差別の国でも黒人監督が生まれにくい理由

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by AP/AFLO

 いうまでもなく、これは白人監督にとって、あるいは指導者になりたい白人選手にとってはおいしい状況だ。フランスのフットボール指導者の労働組合であるUNECATEFのピエール・レペリーニ副会長は、黒人監督の不在を憂いながら、含みのある言葉でこう語った。「力量の問題? 資格を取るのはむずかしい? そもそも誰が関心を払っている? 厄介なことばかりだ」

 ジャン・ティガナは心配していないと言う。「物事はいい方向に進む。女性の参政権のようなものだ」。そうかもしれない。だがこの問題は過去20年間、まったく進展していない。

 おそらく必要なのは、実際に目に見える施策だろう。アメリカンフットボールのNFLは2003年、「ルーニー・ルール」を採択した。これはチームが監督や幹部を採用するときに、人種的マイノリティーを少なくともひとりは候補に入れて面接するよう定めたものだ。

 このルールによって、NFLには変化が起きた。最近のスーパーボウルを戦った10チームのうち7チームは、非白人を監督かGMとして雇っていた。

 イングランドのプロフットボール選手協会(PFA)も、イングランド・フットボールにとっての「ルーニー・ルール」を求めている。現役時代はアーセナルのMFで、今はPFAで指導者を養成しているポール・デービスは、BBCにこう語った。「フットボールは多くの才能をみすみす腐らせている。それは黒人が、自分は指導者になれないと感じているためだ。黒人選手と話をすると、『たぶんうまくいかないだろう。指導者になるためのトレーニングを6~7年やっても、たいした仕事には就けないと思う』などと言う」

 デービスはビッグクラブの監督人事について、こうも言った。「これまで面接したことがないような人たちに会うことが奨励されているなら、考えてみていいのではないか。『この人物は悪くない。思っていたよりもいい』と思えるかもしれない」

 それでもだめなら「ルーニー・ルール」の出番だ。そうすれば、またセルビア人に猿の鳴きまねをされたとしても、イングランド人は「うちの国に差別はない」と、もっと胸を張って彼らを批判できるだろう。

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