【イングランド】シティはサッカー界に次の「王朝」を築くかもしれない (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by GettyImages

 ウィルソンのデスクに「プロジェクト・リスト」と書かれたファイルがあった。彼は僕に表紙だけ見せてくれたのだが、そこにはこんな目標が書かれていた。「ファーストチームに生え抜きの中心選手を」。「チームの発展」という見出しの下には「継続に向けたプロジェクト──早く手をつけろ」。一方のフレイグが取り組んでいる長期的なプロジェクトには「フットボールクラブで業績給を活用するには?」といったものがある。

 ここで重要なのは、クラブの進めるプロジェクトを毎週の試合結果によって簡単に変えないことだ。セルヒオ・アグエロが土壇場でリーグ優勝を決めるゴールをあげてもあげなくても、決して変えないことである。

 シティの今のところのゴールは「継続」だ。ビジネス界では当たり前の話だが、フットボールクラブで継続性を獲得したところは実に少ない。アーセナルやマンチェスター・ユナイテッドは継続性を手にした。どちらのクラブも同じ監督が永遠に指揮をとるのではないかとさえ思える。バルセロナも変わらないプレイスタイルを持つことによって、継続性を獲得している。

 まだシティは、クラブのアイデンティティーを見極めようとしているところだ。資金も頭脳もあるこのクラブがうまくやれたなら、フットボール界に次の「王朝」を築くことができるかもしれない。

[追記]データが公開された意味

 データの扱い方を知っていてフットボールに関心のある人は、今シーズンから誰でもマンチェスター・シティのサイト(www.mcfc.co.uk/mcfcanalytics)に行って、生のデータに触れられるようになった。シティはフットボールの分析システム「オプタ」が提供する昨季のプレミアリーグのデータをすべて公開している。ここに行けばどんな数字でも見ることができる。最も高い割合でパスを通した選手は誰か、チェルシーのジョン・テリーはウィガン戦で何本のパスをインターセプトしたか......。「プレイごと、選手ごと、試合ごと、週ごと──あらゆる数字がわかる」と、フレイグは言う。

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