【イングランド】テベス、バロテッリとのトラブルからシティが得た教訓 (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by GettyImages

 僕はウィルソンに、この「騒ぎ」がどれほどチームにとってマイナスになったのか尋ねてみた。すると驚くような答えが返ってきた。「まじめな話、とてもいい経験だった」と、ウィルソンは言った。「うちがあのとき何をしたか。ライバルが何をしたか。あの経験があるから、次に同じようなことが起きたらもっとうまくやれる。次にマリオ・バロテッリのような選手が出てきたら、彼をどう手なずけるべきか、あるいは放っておくべきかがわかった」。ウィルソンに言わせるなら、監督が全権を持つクラブではその人物がいなくなると、蓄積されていた知識や経験も一緒に失われる。しかしシティでは多くの人がそれらを共有しているから、知識や経験がいつまでもクラブに残るという。

 おそらく2011~12シーズンのシティの実力は、同じカリントンのすぐ近くにトレーニング場があるライバルのマンチェスター・ユナイテッドを上回っていた。「チームの中にも外にも、『もう金でタイトルを買ったようなものなんだから、そのとおりになるんじゃない?』という雰囲気があった」と、ウィルソンは言う。

 しかし、リーグ優勝だけで満足できたのか。フレイグがコンピューターですぐに何かを計算して、バルセロナやイングランドのライバルチームなど有名クラブとシティの比較をはじき出す。フレイグの結論は、実にまっとうなものだった。ライバルクラブの選手のほうが、今のシティの選手たちより一緒にプレイしている期間が長く、シティの選手より主要リーグでプレイした試合もはるかに多い。しかも、ライバルクラブの選手の平均年齢は26~28歳だ(シティの平均年齢は25歳)。

 フレイグは僕に言った。「昨シーズンの開幕前には『今年のチームはすばらしいが、リーグ優勝したら出来すぎだと思うことにしよう。うちは経験も足りないし、選手の入れ替わりもたくさんあったから』と言っていた。それでもリーグで優勝できた」。フレイグは自分からそう言わないだろうし、ひょっとすると思ってもいないかもしれないが、シティがプレミアリーグを制覇できたのは彼の率いる戦術分析チームのおかげだろう。
(続く)

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