平壌で目撃。知られざる北朝鮮サッカーの育成の現場 (3ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by Kimura Yukihiko

――やはり夢は国家代表選手になっていってくれることでしょうか。
「それを願わない指導者がいるでしょうか。最初はまずサッカーを好きになってくれることを心がけていますが、それからはハードなトレーニングもします。夏休みは午前2時間、午後2時間の練習です。試合前は3時間ずつやることもあります」


――上の世代へはどのようにつなげるのでしょうか。

「中学校でもサッカーを続ける子については、その新しい監督にどういう選手であるのかを伝達します。それは男子も同様ですが、骨格も筋肉も日に日に成長する大切な世代ですから、その選手にとって継続した指導は重要です。指導者が代わってしまうことで今まで学んだことが、台無しになるようではいけません」

 練習に来ていた女子選手に無作為に声をかけてプレイを見せてもらった。ボールを抱えていた四年生の金秀蓮選手は両足の異なる部位を使ってリフティングをこなした。

「小学三年生でリフティング500回、四年生で1000回はできるようになっていきます」

 チャンギョン小は、歴史は古いが、一般的な小学校である。青少年体育学校のような選抜養成機関ではなく、あえて町中の公立教育機関を選んで取材をしたのだが、エリート教育よりもむしろ、裾野の広がりと底辺の育成組織に力を入れていることが実感させられた。

 2011年、北朝鮮は三紙(労働新聞、朝鮮人民軍、青年前衛)の共同社説で「スポーツ強国になろう」という中央党の方針を発表している。いわば国を挙げての強化である。予算などに関していえば経済的に厳しい状況下であるが、ロンドン五輪を見ても代表選手団の数からすれば効率の良いメダルの取り方をしている(金メダル4、銅メダル2)。

 才能ある選手を少数精鋭で中央に集めての集中強化が施策かと思っていたが、ことサッカーに関しては学校体育と連動した土のグラウンドからの育成が奏効していると言えよう。

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