【イタリア】バロテッリにとって代表、ユーロとは何だったのか (2ページ目)

  • 内海浩子●文 text by Uchiumi Hiroko
  • 原壮史●写真 photo by Hara Masashi

 彼には自分がイタリア人であるという強い誇りがあり、イタリア代表に対する執着は尋常ではない。アズーリが自己の証であるかのように。そう考えると、今回のEUROの出だしの、柄にもない緊張とこわばりの理由が見えてくる。

 グループステージのバロテッリはいつもの彼ではなかった。前線で積極的にプレスをかけ守備にも貢献するのだが、動きは固く、思い切りもなく、肝心の絶好機を決められなかった。国内では不満の声があがった。「期待外れもいいところだ」と。また、彼が合宿所でチームメイトから浮いていると報道されたり、スタジアムでは人種差別も入り混じったブーイングを浴びせられたりもした。風向きは悪くなるばかりのように見えた。

 しかしプランデッリはセンシブルな監督だ。3戦目のアイルランド戦で、彼は試合に出られる状態にあったバロテッリをあえてスタメンから外した。ベンチに置かれる怒りを引き出して緊張を解きほぐすと同時に、彼が背負っていた責任の重荷を少し軽くするためだ。この療法が功を奏したのか、後半途中からピッチに立った彼は今大会初のゴールを決めた。

 肩の力が抜けたマリオは普段の自分を取り戻した。スペインとの決勝ではいいところがなかったが、イレブン全員が疲労困憊の中で、あれ以上何ができたというだろう。

 イタリア代表は彼のお陰もあってファイナルまで進んだ。とはいえ今大会のイタリア代表が「バロテッリのアズーリだった」とは言い切れない。真の力を出せたのはドイツ戦だけで、大会を通してチームをけん引したのはピルロ、デ・ロッシら2006年W杯優勝メンバーだった。彼にとってそのあたりが少々"不本意"だったはずだ。

 これからも波はあるだろう。性格的な不安材料もある。だが彼のよき指導者であり懐(ふところ)深いプランデッリの監督続投は朗報だ。この導き手によってブラジルまでに引き出される潜在能力はまだありそうである。

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