【EURO】ウクライナの客席から「ロシア!」のかけ声が出た理由

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

全面改修されたキエフのオリンピックスタジアム。決勝は7月1日に行なわれる全面改修されたキエフのオリンピックスタジアム。決勝は7月1日に行なわれる【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】ウクライナにとってのユーロ(後編)

 ウクライナがユーロ2012のための施設などをかなり急いで建設したことを、副首相のコレスニコフは認めている(総費用の推定は50億ドルから150億ドルまでさまざまだ)。だが急がざるをえなかったのは、2010年まで大会準備を取り仕切っていたはずのティモシェンコ前政権のせいだと言う。

「最も大きな問題は、前政権がなんの青写真も残していかなかったことだ」と、コレスニコフは言う。「腐敗の問題はティモシェンコ政権に聞いてくれ。私は彼らを批判したことはないし、今後もするつもりはない。やっても仕方のないことだからね。しかし、これほど重要なプロジェクトを彼らが熱心に進めなかった理由は理解できない」

 前首相のティモシェンコは、ユーロの開催都市のひとつであるハルキウで刑に服している。彼女は獄中で暴力を振るわれていると主張している。

 政府のインフラ担当も務めるコレスニコフは、今大会のために整備されたインフラがウクライナの発展を加速させると考えている。「74年間にわたる独裁制と19年間に及ぶ政治の無策によって、この国は進歩を妨げられてきた。1年半のうちに5カ所の国際空港を建設した国がほかにあるだろうか。われわれは超特急も走らせた。建設・改修した道路も2000キロ近くに及んだ」

 この大会中に100万人の外国人観光客が訪れることを、ウクライナは期待していた。ところが、開催都市の通りにはファンの姿がほとんど見えない。多くのファンはキックオフのほんの数時間前に飛行機でやって来るだけだから、開催都市に金が落ちるわけでもない。グループリーグでは、フランス─イングランドのような好カードでも空席が目立った。

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