【EURO】拙攻イタリア、「負の空気」を消したピルロの芸術的PKで準決勝進出 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • 中島大介●撮影 photo by Nakashima Daisuke

 ピルロを中心に、パスをつないで攻撃を組み立てようとする意図ははっきりと見えた。と同時に、タイミングのいい縦パスも入っていた。ところが、それに対する周囲の動きがなく、次の展開、とりわけ前方向への展開につながらないのである。

 結果、どうしても足元でパスをつなぐことが多くなるのだが、ボールコントロールのミスも多く、なかなかシュートまで至らない。結局、2トップのバロテッリとカッサーノが、個人能力でチャンスを作り出すしかなくなっていった。

 こうなると、イングランドがカウンターからもっとチャンスを作ってもよかったはずだ。しかし、こちらもまた攻撃に鋭さを欠いていた。

 特に後半、イングランドは完全に運動量が落ちてスピードがなくなり、後ろから選手が押し上げることもままならなくなった。ロスタイムの93分、ルーニーがオーバーヘッドで惜しいシュートを放ったのを最後に、延長戦の30分間はまともに攻撃ができないままだった。

 つまるところ、ボールポゼッション率、あるいはチャンスの数から言えば、イタリアが優勢だったのは確かだが、どちらも拙攻が続いたという点では大差なかった。

 冒頭に記した"セオリー"に照らせば、PK戦に入って分があるのはイングランドのはずだったが、この試合内容では「PK戦になればイケる」というムードが漂わなかったとしても無理はない。

 かといって、「120分間の流れそのままに」というほど、イタリアに勢いがあったわけでもなく、ヨーロッパを代表する伝統国同士の激突は、しかし、正直なところ、退屈な試合だったと言わざるをえない。

 確かに、PK戦でのピルロのキックには驚かされた。最終的に結果を左右したポイントを挙げるなら、これだろう。

 すでに2人目のモントリーボが外し、1-2でイングランドにリードされていた状況で登場したピルロは、右足で軽く浮かしてゴール真ん中に蹴る大胆なシュートで、間違いなく「負の空気」を消した。

 勝負がかかった大舞台で、あの大胆なキックができるピルロはさすがの一言だが、それがどれほど鮮やかであろうと、たった1本のPKで120分間のすべてを帳消しにできるわけではない。

 伝統国同士の一戦は、それ自体が凡庸な試合だったのと同時に、ある意味で、今大会におけるスペインとドイツの強さを一層際立たせる試合だったのではないかと思う。

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