【EURO】04年ポルトガル対イングランド、混在するファンが美しかった (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Getty Images

 非情な交代と人情味溢れる交代を、戦術的交代の中に落とし込むスコラーリの采配。これでチームの攻撃性はさらにヒートアップした。スタンドは燃え、まさに劇場と化す中、待望の同点ゴールは生まれた。83分、得点者は交代で入ったポスティガで、彼のヘディングシュートをアシストしたのも交代で入ったシモン。スコラーリ采配はズバリ的中した。

 記者席に備え付けられたモニター画面は、ポルトガル国旗をペイントしたおばさんの顔が溢れる涙でぐちゃぐちゃになっている絵を捉えていた。イングランドのエリクソン監督がすっかり薄くなった頭を掻きむしる瞬間も捉えていた。

 すると終了間際、イングランドにチャンスが訪れる。キャンベルのヘディングがバーを直撃。胸をなで下ろすポルトガル人と、頭を抱えるイングランド人。繰り返すが、それぞれが、隣り合わせになりながらピッチに目を凝らしているところが、この試合の面白いところだった。

 試合は延長へ。クライマックスはその前半4分40秒に訪れた。ポルトガルに逆転ゴールが生まれた瞬間だった。得点者はルイ・コスタ。そのインステップが激しくイングランドゴールを揺るがすと、「ルス」の密閉感の高いスタンドにはこの日一番の大音量が轟(とどろ)いた。

  延長後半も半ばを過ぎると、さすがにポルトガルは「パス回し」に入った。スタンドには「オーレ、オーレ」の歓声がこだました。試合は終わったかに見えた。延長後半9分、すなわち残り時間あと6分。ベッカムのCKをテリーがヘッドで折り返す。ランパードがそれをゴール中央で押し込み、イングランドは土壇場で同点に追いついた。

 ストーリー的にはイングランドは余計なことをしたわけだが、両国の歴史的な関係を思うと、引き分けはいい決着の仕方のように見えてくる。

 PK戦。何を隠そう僕は、あまりサッカー的な匂いのしないPK戦が大嫌いなのだが、この時は別。その行方を食い入るように見つめた記憶がある。

  名勝負の陰に名采配あり。この試合をひと言でまとめればそうなる。ブラジル人に名監督はいないとはよく言われることだが、ルイス・フェリペ・スコラーリは例外。土壇場で同点ゴールを決め、PKで敗れたイングランドの退き方も見事だった。上品な振る舞いだった。この日のイングランドに敗者のイメージはない。両者が入り乱れるように陣取るスタンド風景も含め、この試合はかなり美しかった。サッカーの枠、スポーツの枠を超えたエンターテインメント。パチパチと思わず拍手を送りたくなる名勝負だった。

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