バルセロナの秘密~グアルディオラが成し遂げた革新とは何か (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

 2009年にローマで行なわれたチャンピオンズリーグ決勝は、「バルサの壁」のいい見本だった。マンチェスター・ユナイテッドはボールを自分たちのものにするたび、正確にポジショニングした11人の敵を相手にしなくてはならなかった。11人の壁は「ここを通れるものなら通ってみな」と言っているように見えた。

 バルセロナがコンパクトな布陣をとることは──プレスをかけるときも、「壁」をつくるときも──まったくむずかしくない。選手たちは試合中、互いに非常に近い位置でプレイしているからだ。とくにシャビとイニエスタのふたりは、ボールから遠く離れることがめったにない。

 クライフは最近、元イングランド代表監督で現在はオランダのFCトゥウェンテを率いるスティーブ・マクラーレンにこう語った。「バルセロナがなぜあんなに早くボールを奪い返せるかわかるかい? 10メートル以上走らなくていいからさ。だってバルサは、10メートル以上のパスを出さないんだから」

3 プレスのタイミング

 バルセロナがコンパクトな壁を築いたら、あとはプレスをかけに行くタイミングを計るだけでいい。バルサはそのタイミングを勘で決めたりしない。プレスをかけるべき正確なタイミングを知っているからだ。

 たとえば相手選手がボールコントロールに手間取っているときだ。ボールが足元で跳ねていたら、相手選手はボールを収めるために下を向く。そうなるとピッチ全体への視野が失われる。近くにいるバルセロナの選手たちが牙をむくのは、その瞬間だ。

 あるいは、ボールを持っている相手選手が自陣ゴールのほうを向いているときだ。そちらを向いていると、選択肢が狭くなる。振り向く時間をバルサが与えてくれないかぎり、その選手はパスを前方に送れない。バルサはその時間を与えない。すぐにプレスをかけるから、相手選手はバックパスをせざるをえない。そうするとバルサは前へ進める。
(続く)

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