バルセロナの秘密~グアルディオラが成し遂げた革新とは何か

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

 バルセロナの戦術を検証する前に、まずグアルディオラが何をやったかを押さえておこう。4年前、バルセロナの副会長が僕に向かって、当時37歳だったグアルディオラを監督に据えたいと言ったとき、僕は本当に実現するとは思わなかった。グアルディオラには指導者としての経験がほとんどなかった。指揮した唯一のチームはバルサのBチームだった。

 それでもクラブ内でグアルディオラと仕事をした人たち(前会長のジョアン・ラポルタやテクニカルディレクターだったチキ・ベギリスタインなど)は、とっくに彼に目をつけていた。グアルディオラはバルサの伝統のスタイルを知りつくしていただけでなく、さらに上をめざすにはどうしたらいいかを考えていた。

 かつてグアルディオラは、バルセロナのスタイルを「大聖堂」に例えた。グアルディオラに言わせれば、この「大聖堂」を建てたのは、70年代にバルサの最高の選手としてプレイし、後に監督になったヨハン・クライフだ。彼の後を継いだ人々の仕事は、「大聖堂」を補修したり、新しくすることだった。

 グアルディオラは、新しくすることをいつも考えていた。街で誰かがフットボールの話をしていたら、グアルディオラは耳をかたむける。彼はいつもフットボールのことを考えている。学んだ相手は、マルセロ・ビエルサ、ルイス・ファン・ハール、それに友人でもあるフアン・リージョといった指導者だけではない。自分がプレイしたチーム(バルセロナや、守備の総本山であるイタリアのASローマ)の選手たちからも学んでいる。しかしグアルディオラは自分のアイデアをメディアに語ろうとしないから、僕たちはバルサの試合を「暗号表」を持たずに見るような状況になっている。

 クライフはフットボール史で最も革新的な思想家だったかもしれない。だが彼のアイデアは、ほとんどが攻撃に関するものだった。たとえ3点取られてもバルサが5点取るなら別にかまわないと、クライフはよく言っていた。

 グアルディオラも5点取りたいと思っている。しかし彼の場合は、相手に1点もやりたくない。もしバルセロナが大聖堂だとすれば、グアルディオラは控え壁(聖堂の主壁を支える役割をする補助的な壁)を加えたのだ。今季のリーグ戦でバルセロナは、開幕から33戦で24点しか与えていない。

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