【S・クーパー】アレックス・ファーガソンが語る指導者に必要な資質

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

6 他人をストレスのもとにするな。

 1997年にイギリス総選挙が迫った頃、キャンベルはストレスをため込んでいた。周囲はブレアが勝つだろうと思っていたから、未来の首相にはじかに陳情を持ち込まず、側近のキャンベルのもとに殺到しはじめた。

 キャンベルはファーガソンに電話でぼやいた。「どうにもプレッシャーがきつくてね」。ファーガソンは答えた。「そういうとき私ならどうするか教えようか。心の中で自分に目隠しをするんだ。人が押しかけてきても、誰と話をするかを決めるのは自分だけだ」。陳情に来る相手にはこう言えと、ファーガソンはキャンベルに助言した。「ご自分たちで解決できると思いますよ」

7 危機はいずれ過ぎ去ると心得よ。

 ファーガソンはあまりに多くの危機をくぐり抜けてきた。エリック・カントナが観客にカンフーキックを見舞ったこともあった。ファーガソンがデイビッド・ベッカムに靴を蹴飛ばしてぶつけたこともあった。ファーガソンは絶対にあわてない。危機はいずれ収まることを知っているからだ。

8 決して満足するな。

「私がいちばん好きな時間は──」と、ファーガソンはインタビューでよく言う。「勝利を手にする最後の瞬間だ。そこを過ぎると、幸福な感覚はすぐに吹き飛ぶ。記憶も30分で消え去る。麻薬みたいなものだね。あの感覚を味わうために、私は何度も同じ演技をしなくてはならない。審判に向かって『早く笛を吹け!』と叫ぶんだ」

 満足したらおしまいだと、ファーガソンは心得ている。今まで獲得したトロフィーは単なるお飾りにすぎず、ファーガソンはその先にもっと大きな目標を持っている。決して達成したくない目標を。

(C)The Financial Times

前編を読む>>アレックス・ファーガソンが監督として成功した理由

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