広島スキッベ監督の冴えわたる手腕。既存選手の能力を最大限に引き出して勝つ、理想的な地方クラブ像 (2ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 木鋪虎雄●撮影 photo by Kishiku Torao

能力を開眼させた助っ人たち

 今季より指揮を執るドイツ人指揮官は、ハイプレスと縦に速いスタイルをチームに植えつけ、躍進を導き出している。昨季からの戦力的な上積みがほとんどなかったにもかかわらず、そのスタイルのなかで既存の戦力が持てる力を十全に発揮できるようになったのだ。

 この日の逆転劇を導いたのは後半からピッチに立ったドウグラス・ヴィエイラだったが、彼もまたスキッベ監督の下で開眼した選手のひとりだろう。高さと強さを生かして前線で起点となり、裏抜けでゴールにも迫れる。故障がちで稼働率は低いとはいえ、ピッチに立てば高い確率でゴールに直結する仕事をこなしている。

 同じブラジル人のエゼキエウも、この速いサッカーによって持ち味を発揮しはじめている。ドウグラス・ヴィエイラと同様に故障明けながら、前節の鹿島アントラーズ戦ではカウンターからダメ押しゴールを決めた。

 昨季まではともに助っ人としては物足りない出来だったが、スキッベ監督の下で役割が明確となり、躍動感溢れるパフォーマンスを示している。エースとして期待されたジュニオール・サントスこそ覚醒を促せなかったとはいえ、適性を見極め、能力を導き出すスキッベ監督の手腕は高く評価されて然るべきだろう。

 柏相手にJ1初ゴールとなる同点弾を叩き込んだ松本にしてもそうだ。昨季までくすぶっていた23歳のセントラルMFは、天皇杯で結果を出したことをきっかけにポジションを掴み、主軸へと成長を遂げている。

 決勝点の藤井も同様だ。スピードを生かしたプレーで右サイドを制圧し、プロ2年目の今季に完全に独り立ちした。

 アグレッシブなスタイルが助っ人や若手の力を導き出した一方で、長く広島を牽引してきた青山敏弘は、厳しい立場に追い込まれている。それでもこのベテランは36歳となっても新たなスタイルの習得にポジティブに取り組み、必死に食らいついている。スタメンの座こそ失ったものの、クローザーとして勝利に導く役割をまっとうしている。

 ほかにも森島司や満田誠ら、スキッベ監督の下で飛躍的に成長を遂げた選手は枚挙にいとまがない。

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