ピーター・ウタカが語る日本とJリーグ。「日本のサッカーファンは世界の最先端かもしれない」 (3ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi
  • photo by Getty Images

日本のファンは世界一

 日本のサッカーファンについては「世界一だ。愛しているよ」と言い、右手の親指と人差し指をつけ、そこに音を立ててキスをした。なかなか絵になる仕草だった。

「欧州やほかの国のファンと比べて、違いは明らかだ。欧州ではプロの選手に対する重圧が常軌を逸している。選手は時に、身の危険を感じることさえあるくらいだ。とくにアウェーに遠征した時がきつい。僕は欧州カップ戦でいろんな国に遠征したけれど、どこに行っても当地のファンは敵に嫌がらせをする。文句を言ったり、ブーイングをしたり、人種差別的なジェスチャーをしたりして、相手選手の集中を削ごうとするんだ。

 でも日本ではこの7年間、一度も嫌な目に遭ったことがない。アウェーに乗り込んだら、相手サポーターから拍手で迎えられたりするくらいだよ! そんなことは、欧州では絶対に起こり得ない」

 ただし、そんな事実を古くからの友人に話しても、なかなか信じてもらえないという。フットボールは本来的にスポーツだが、まるで戦のように捉える国や人々も多い。だから、敵地に乗り込んできた相手は憎き敵であり、地元サポーターが侵入者を温かく歓迎するなんてことはあり得ないのだろう。

 その一方で日本には、サッカーを純粋に娯楽として楽しみ、相手にも笑顔で拍手をするサポーターがいる。ウタカも自分の目で見るまでは、世界にそんなフットボールファンがいるとは、思いもよらなかったという。そして実際に経験した時の感動は、ちょっと芝居がかった調子でこう語った。

「『ワオ、こんな世界があるのか』と考えさせられたよ」と、左腕に乗せた右手を顔に当て、感銘を受けた当時を思い起こすようにウタカは続ける。

「『すばらしい。彼らは最先端のサポーターかもしれない』と感じたよ。本当さ。僕の言っていることはわかるよね。だってフットボールはそもそも、生死に関わることではないでしょ。欧州なんかには、それを戦争のように捉える人もいるけど、本来は楽しいものだよね。日本のファンはフットボールをスポーツとしてシンプルに楽しんでいる。最高のサポーターだよ」
(中編につづく>>)

ピーター・ウタカ
Peter Utaka/1984年2月12日生まれ。ナイジェリア・エヌグ出身。京都サンガF.C.所属のFW。2003年にマースメヘレンでデビューしたベルギーでは3チームでプレーし、その後4シーズンを過ごしたデンマークのオーデンセでは、2009-10シーズンに得点王を獲得。2012年からは中国でプレーし、2015年に清水エスパルスへ。翌2016年、サンフレッチェ広島でJ1得点王を獲得。その後FC東京、ヴェイレ(デンマーク)、徳島ヴォルティス、ヴァンフォーレ甲府、2020年から京都でプレーしている。

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