水沼宏太「見返してやるという気持ちだけでやってきた」。32歳で初招集、日本代表のラストピースとなるか (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by KYODO

先発わずか1試合で最多アシスト

 実際、水沼は父がいた横浜FMでは不遇を囲い、J2栃木SCに新天地を求め、泥臭くプレーを続けるなかで成長していった。ルーマニア1部のクラブに武者修行に行き、タフな戦いをする選手に共感したこともある。鳥栖に入団して「不屈さ」に磨きをかけ、実力を示した。FC東京では評価を得られなかったが、セレッソ大阪ではタイトル獲得の中心選手になった。そして原点である横浜FMに戻り、昨シーズンはたった1試合の先発出場ながら、チーム最多、リーグ2位のアシストを記録。今シーズンは中心選手の座を勝ち取り、代表の座をつかんだ。

 水沼は"起伏"のなかで居場所を作ってきた。負けない、めげない、へこたれない。その精神が原点にある。そして特筆すべきは、苦境やライバルを少しも恨むことがない点にあるだろう。反骨心は復讐心にも似て、しばしば暗さを伴う。ところが彼にはそれが一切ない。とことん明るく、朗らかに振る舞うことができる。明るさと言っても、はしゃぐような類のものではない。明朗さは集団スポーツではひとつの才能である。

 E-1選手権に挑む日本代表でも、水沼の明るさはチームに好影響を与えるだろう。 

 ひとりの戦力としても、そのクロスは強力な武器になる。彼ほどの精度でクロスを上げられる日本人選手はいない。代表のレギュラーは、圧倒的なスピードを誇る伊東純也、中に入って左足でのプレーを得意とする堂安律、久保建英が有力だが、まったく色合いが異なる。サイドバックを引き出し、インサイドハーフと連係し、ゴール前に入る賢さもある。代表メンバーが26人に増えただけに、最後のピース候補と言えるだろう。

「(水沼)宏太は幼い頃から、物事をあきらめずに続ける強さがあった」

 『グロリアス・デイズ』のなかで、水沼貴史氏は父としてそう証言していた。

「小5の時、宏太は二度も右足中足骨を骨折している。サッカー選手として一番、技術が身につく時にボールを蹴ることができなかった。あいつをソファに座らせ、ソフトボールを左足に投げ、戻させる練習をしたのを覚えているよ。それに子供の頃の宏太はFWで、シュートをバンバン打っても入らなくて批判的な声も出た。それでも、あいつは打っていた。とにかく諦めなかった」

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