ヴィッセル神戸、またもビジョンなき監督交代劇。クラブ運営のひずみが不信を生む (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

四面楚歌だったロティーナ

 神戸はチーム構造上、前がかりである。攻撃的な戦いへの憧れから、特にオフェンシブな選手に大金を支払っている。年俸だけで言えば、「Jリーグのスーパースター軍団」と言える。アンドレス・イニエスタを筆頭に、「自分たちがボールを持つ」というサッカーへの渇望が強い。

 しかし、ロティーナは守備のスペシャリストである。彼自身はその持ち味を出すべく、「いい守りがいい攻撃を作る」という戦い方にシフトしようとした。カップ戦ではある程度、成果を残したが、選手たちとの溝は埋められなかった。

 選手はどこか焦れたような様子で、むしろ監督への不信感を強めた。主力選手は前からプレスではめ、高い位置で戦い続け、攻撃的な戦いを求めていたが、前回も書いたように、そもそもその練習をしていない。浦和戦では、イニエスタがいなくなって前がかりになったが、むしろ背後を突かれて敗れた。

 四面楚歌のロティーナは苦心している。どうにかイニエスタを生かす戦い方を模索したが、イニエスタを生かすような選手がいない。両サイドからひとりで切り込める選手はいないし、古橋亨梧のように裏を取れる選手もいなかった。さらに、ディフェンス面に支えとなるような人材がいなかったのは致命的で、その脆さが表面化した。

 ロティーナは指揮官であり、現場の全責任がある。しかし、前提として選手編成がいびつだった。しかも今シーズン3人目の監督で、アジャストさせる時間も与えられていない。
ここで、神戸の悪癖が出た。

<監督交代>

 そのカードを切って、今シーズン4人目の監督として"吉田政権"を誕生させたのである。

 そして実は、今回はより強い危機が滲む。

 過去にはリージョ、トルステン・フィンクも"辞任"によって、突然、職を辞している。どちらも日本での監督経験を楽しんでいたことだけは間違いない。それでも、辞任という"結末"になった。

 しかし、最下位が定着しつつある今回は、そうした体裁もとり繕うことができず、ロティーナのクビを切り、内部昇格の形で強化部の吉田氏を引き上げたのだ。

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