松井大輔が挙げる、サッカー人生で影響を受けた3人。「プロ選手としてすべてを教えてもらった」 (3ページ目)

  • 中山 淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi
  • photo by Getty Images

選手に判断させることを大事にする

3人目/イビチャ・オシム(ボスニア・ヘルツェゴビナ/元日本代表監督)

 そしてもうひとり、これまで指導を受けた監督のなかで大きな影響を受けたのが、日本代表監督時代のオシム(故イビチャ・オシム)さんです。

 僕の場合、オシムさんの下でプレーしたのはオーストリア遠征(2007年9月の3大陸トーナメント)の2試合、オーストリア戦とスイス戦だけでしたが、その短い合宿のなかでも、自分の考え方が変わるようなインパクトを受けました。

 オシムさんから最初に言われたのは、「お前はディフェンスをしなくていい。左サイドにいて、所属チームでしているとおり、ドリブルをすればいい」ということでした。それを聞いた時は、正直言って驚きましたね。守らなくてもいいとはっきりと言ってくれた指導者は、僕のキャリアのなかではオシムさんだけですから。

 それと、オシムさんのトレーニングに参加してわかったのは、一応のルールはあるけれど、最終的には自分で判断することを求めている、という点でした。

 たとえば、自陣では2タッチまでの制限があり、敵陣に入ったら3タッチまでが許されるゲーム形式のトレーニングがありました。そこで、ドリブルをしたいと考えた僕は、自陣でボールを受けて、敵陣にボールを蹴ってからドリブルするというプレーをしていました。オシムさんは「お前は本当にドリブルが好きだなぁ(笑)」と、笑いながら声をかけてくれました。

 そこでオシムさんからの教えとして吸収した部分は、監督に言われたことだけをするのではなく、たとえば3つの選択肢がある局面を迎えたら、最終的には自分でどれをチョイスするのかを決めるということ。

 そういう指導方法を初めて知ったのはとても新鮮でしたし、今後もし僕が指導者になったら、自分の考えを選手に押しつけるのではなく、最後は選手に判断させることを大事にする指導者を目指したいと考えるようになりました。

 周りの選手たちからは、オシムさんは怖いという話を聞いていましたが、僕はフランス語でオシムさんと直接会話をかわしていたので、そうした印象はまったくありませんでした。オシムさんも現役時代にフランスでプレーしていた経験があったからなのか、僕に親近感を持ってくれている印象もありました。

 その後もオシムさんの代表チームでプレーするのをとても楽しみにしていたので、その後病気になられてしまったことはとても残念でした。

 そして、きっと僕のようにオシムさんの影響を受けた日本人選手や指導者は多いと思いますが、そういった影響力のある方が亡くなってしまった。日本サッカー界にとってショッキングなことだと思います。

 これからも、オシムさんの教えを胸に今後のキャリアを進みたいと思います。

松井大輔
まつい・だいすけ/1981年5月11日生まれ。京都市山科区出身。鹿児島実業から2000年京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)に入団しプロキャリアをスタート。2004年にフランスのル・マンへ移籍し、ロシア、ブルガリア、ポーランドなどでのプレーも経て、2014年にジュビロ磐田で国内復帰。横浜FCを経て、現在はY.S.C.C.横浜でプレーしている。日本代表では2010年南アフリカW杯で活躍した。

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