サガン鳥栖、開幕から5試合負けなし。新指揮官が整える「サッカーの仕組み」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by KYODO

能動的サッカーと若手の成長

 堀米は新しい鳥栖を代表する選手だろう。もともと攻撃センスは高い評価を得ていたが、ハイレベルの攻撃的サッカーのなか、ようやく水を得た魚のような活躍を見せるようになった。何気ない左足クロスは正確なだけではなかった。受け手の性格に合わせ、俊敏さと抜け目のない藤原にはファーへ、高さとパワーもある垣田にはニアへ。判断やタイミングが抜群で、精度のディテールが出せるようになった。

 今シーズンの順位予想で、筆者は鳥栖を7位に挙げている。昨シーズンと同じ順位だが、他の識者は「多くの主力が抜け、監督も代わった」と降格圏に予想しているだけに異色だった。順位はこれからどうなるかわからないが、「サッカーの仕組みは用意する」という確信があった。

 新たに就任した川井健太監督は、J2愛媛FC監督時代も能動的サッカーに取り組んでいた。人やボールの動きにロジックを感じさせ、鍛錬によるオートマチズムも見え、成長を見せる選手もいて、クラブ内の信頼も厚かった。ただいかんせん、理想を実現する戦力が足りなかった。着地点を探しているうちに、順位そのものは伸びなかった。

 しかし、戦力が整った鳥栖ではプレーモデルを植えつけ、選手の力を引き出せるはずだ。

 主力は抜けたが、補強した選手に遜色はない。本当に惜しまれたのは、樋口雄太(鹿島アントラーズ)、エドゥアルド(横浜FM)の2人だけ。GK朴一圭の残留は何よりも大きく、新加入の宮代大聖、垣田は戦力を高め、堀米は才能を開花させつつあり、岩崎、中野伸哉、飯野七聖、菊地泰智など若手は成長が見込める。

 もっとも、プレーの仕組みは整えつつあるものの、改善の余地はいくらでもあるだろう。

 たとえば、スペースを制するために消耗が激しく、後半になるとプレー強度が下降線を辿る。結果的にほとんどすべての試合で終盤に手一杯。それが引き分けの多い理由のひとつでもあるだろう。

 また、セットプレーの対応も甘さが見える。名古屋グランパス戦はCKからのオウンゴールもあったが、それ以上にペナルティアーク付近に誰も置かず、ゴール方向に全員が引っ張られる守備が気になった。

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