サガン鳥栖、開幕から5試合負けなし。新指揮官が整える「サッカーの仕組み」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by KYODO

 3月18日、ニッパツ三ツ沢球技場でのゲームは厳しい条件のもとで行なわれた。

「試合延期でもおかしくはない天候で。サッカーを見せることは難しかった」

 試合後、横浜F・マリノスのケヴィン・マスカット監督が語っている。強い雨が降り続き、ぬかるんだピッチでは、次第にボールが止まり、スライディングは滑りすぎてやや危険だった。スコアレスドローに終わった一戦で、何かを語るのは難しい。

 しかし、こうした試合でも、戦いの特徴は断片として出るものだ。開幕以来、リーグ戦5試合負けなしのサガン鳥栖は、荒れた天候の中でもはっきりと光明を見せていた。

 横浜FMのポゼッションとボールを前に運ぶ力は、Jリーグでは際立って強力である。その相手に対し、敵地で互角に渡り合っていた。その攻防だけで、実力は明らかだ。

横浜F・マリノスと引き分けたサガン鳥栖のイレブン横浜F・マリノスと引き分けたサガン鳥栖のイレブンこの記事に関連する写真を見る「スペースをどう占拠するのか」

 鳥栖のサッカーは、その感覚が張り巡らされていた。スペースを有利に使うため、各所でオートマチズムが仕込まれ、攻守で優位性を確保する。やや不利な局面はあっても、好き勝手にはさせなかった。

 ボールを持った選手を追い越すランニングも仕込まれていた。たとえば、堀米勇輝がボールを受けた瞬間、阿吽の呼吸で岩崎悠人が左サイドを駆け上がった。スペースを制するための「からくり」とも言えるか。

 第2節の湘南ベルマーレ戦、前半24分の先制点の場面は象徴的だろう。まず堀米が自陣左サイドでためを作る。左を走った岩崎に長いパスを出し、敵陣奥深くへ入って、攻撃スペースを広げる。堀米が駆け寄ると、岩崎からのリターンを受け、左足ダイレクトでファーへ。相手DFの背後を取っていた藤原悠汰に合わせると、ゴールが決まった。流れるような動きで、スペースを支配していた。

 第4節の浦和レッズ戦も、後半26分に左サイドで2人の呼吸がスペースを制している。堀米が受け、左サイドを駆け上がった岩崎へ。これで相手を引っ張ると、リターンを受けた堀米は左足でニアにポジションを取った垣田裕暉の頭に合わせた。

 能動的なサッカーの仕組みのなか、選手が台頭しつつあるのが、最大の希望と言える。

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