ガンバ大阪・片野坂知宏監督に期待する攻撃サッカーの復活。3年でJ3チームをJ1に導いた熱血指揮官の手腕に注目 (3ページ目)

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

優れた指導者に欠かせない要素

 その思惑が、見事にハマった。前半は弱みとなっていた右サイドの守備の強度が高まり、小野瀬と石毛の連動から相手を深く押し込む機会も増加。そして83分、相手に退場者が出た直後のプレーで右サイドを巧みに崩し、この試合で初めての決定機をゴールへとつなげるのだ。

 しかも、アシストしたのは途中出場の山本悠樹で、ゴールを決めたのは同じく途中出場の福田湧矢である。動くことで流れを引き寄せた見事な采配で、結果を出せる監督であることを証明して見せた。

 交代選手が躍動したのにも、理由があると思われる。殊勲のゴールを決めた福田は言う。

「熱い監督ですし、ガンバを変えたい、チームを勝たせたいという想いが伝わってくる。勝たせてあげたい気持ちが強かったし、みんなそういう気持ちだと思います」

 選手のモチベーションを高め、「監督のために」と思わせる求心力は、優れた指導者に欠かせない要素である。

 もちろん、気持ちを刺激するだけでは大きな成果は生み出せない。指揮官はチームの現実に厳しく目を向ける。

「本当にピンチもたくさんありました。選手が身体を張ったり、石川慧のスーパーセーブも助けてくれたり、そういった粘り強い守備というのは今後、すごく大事になっていくと思います。なんとか攻撃のところでもさらにチャンスを作れるように、少しずつですけど積み上げていけたらなと思います」

 たしかにビッグセーブを連発した石川に助けられた部分は大きかったし、チャンスを作れたのも数的優位となってからである。ある意味で不条理な結果に、再現性を求めるのは難しい。だからこそ指揮官は、記念すべき初勝利に安堵こそしても、手放しで喜ぶことはしなかった。

 それでも、この勝利の価値が下がることはないはずだ。2015年に天皇杯を制して以来タイトルから遠ざかる"ナニワの雄"は、この熱血指揮官のもとで復活の道を歩むことができるのか。

 泥臭くつかんだこの1勝が、その一歩となるかもしれない。

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