松木安太郎×清水秀彦スペシャル対談。1993年開幕戦「ヴェルディvsマリノス」の両監督が伝説の一戦を語る (3ページ目)

  • 中山淳●構成 text by Nakayama Atsushi
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 そもそも、Jリーグは「日本代表の強化のために発足します」というのが開幕当初の考えだったので、そこに携わる監督として、日本サッカーが強くなることを大前提としたチーム作りをしたかったわけです。もちろん、我々にもカズや武田がいましたし、そのほかにも優秀な若手もたくさんいたので、十分に戦っていけると考えていましたけどね。

---- 清水さんは、対ヴェルディ戦に強かった原因はどこにあったと考えていますか?

清水 今だから話せるけど、すごく単純な話ですよ。基本的にヴェルディは強いから、絶対にやり方を変えない。こちらもふだんはそれほど変えないんだけど、ヴェルディの肝がどこにあるかはイヤというほど知っているので、そこだけは全体で共有しておいて、集中的に潰しにいくわけです。

 たとえば、ラモスは下がってボールを受ける。ボールを受けると、右利きだからどうしても左に展開するパターンが多くなる傾向があって、右に出す場合はショートパスを味方に当てて、またリターンをもらうことが多い。だから、ラモスが下がってボールをもらったら、ラモスの左側からプレッシャーをかけるように準備しておくんです。

 そうすると、ヴェルディはリズムを失って、無理してつなごうとするところを引っかけてくれるので、こちらはカウンターのチャンスを迎える。特にカウンターを狙えという指示を選手に出しているわけではなくて、ボールを奪ったらどこにスペースがあるかを話しておくだけで、自然とカウンターになるんですよね。

松木 ラモスはボールを触りたがるタイプでしたからね。カズもそう。前でもらえないと、どうしても下がってボールをもらいたがる。ベンチからは「下がるな」って口を酸っぱく言っていたんだけど、彼らには自信とプライドがあるから(笑)。

清水 そう。それもわかっていたので、最初の頃はコーチ陣に(ピッチの)上から見させて、全部パスの回り方をチェックさせたんです。今の時代ならテクノロジーの力で簡単にできるんでしょうけど、当時はそんなものはないから、色鉛筆を使って誰から誰にパスがつながっているか、紙に全部描いてもらって。そうすると、どこを潰せばいいのかが見えてくる。で、実際にそれを実行してみると、まんまとハマるわけです。

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