アルシンドが明かす鹿島アントラーズ入団秘話。「日本に来てみないか」ジーコの誘いに「イエス」と即答した

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【お弁当には驚いた】

 フルミネンセ戦はJリーグ開幕の前だったが、今でも忘れられない思い出がある。ハーフタイムに入った途端、観客がみんな箱に入った食べ物を食べだしたのだ。あとでそれが「お弁当」であることを知ったが、私はそれまでそんな食べ物を見たことがなかった。とにかくスタジアムのすべての人が、サポーターもジャーナリストも、それどころか一部のスタッフやコーチ、果ては選手までもハーフタイムにお弁当を食べているのだ。そんな光景に出くわしたのは初めてで、私は笑ってしまいそうになったが、これが日本の文化なのだとリスペクトしようとした。私も真似して食べてみようかとも思ったのだが、それはちょっと無理だった。

 そしてとにかく感動したのは、ものを食べても、どこにもごみが落ちていなかったことだ。彼らは食べ終わると弁当箱や箸をまとめて、きちんと決められたごみ箱に捨てていた。すべてが整然としており、皆、粛々と手順を踏んでいくのだ。こうした空気は私がそれまでまったく知らなかったものだ。この精神が日本のサッカーにも受け継がれているなら、あまりふざけちゃダメなのかなと思ったものだ。日本人がブラジル人とはかなり違うのだと実感した瞬間だった。

 また、日本人は学ぼうという精神がすばらしかった。だから我々外国人選手は、それに最大限に応える必要があると思った。ピッチでベストを尽くし、自分たちが知っていることをすべて教えるべきだと思った。そこからJリーグは始まった。当時はまさかこんな高いレベルまでたどり着くとは夢にも思っていなかった。30年前からのたゆまぬ努力がここまでJリーグを運んできたんだと思う。
(つづく)

アルシンド
本名アルシンド・サルトーリ。1967年10月21日生まれ。フラメンゴの下部組織で育ち、1986年トップデビュー。サンパウロ、グレミオを経て、1993年、鹿島アントラーズ移籍。Jリーグ開幕とともにゴールを量産する。その後、ヴェルディ川崎、コンサドーレ札幌でもプレー。いったんコリンチャンスなどに移るが、1997年には再びヴェルディ川崎でプレーしている。

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