奇抜なセットプレーの本家が高川学園の「トルメンタ」の利点を解説。「人間の習性をうまく利用できている」 (3ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • 高橋 学●撮影 photo by Takahashi Manabu

【弱者が強者を倒す策】

 立正大淞南はトリックプレーで知られたチームだ。ルール改正によって見られなくなったが、一時はJリーグでも見られた相手が作る壁の前にヒザ立ちで複数の味方選手が並びブラインド役になるFKも、立正大淞南のアイデアから生まれている。指揮を執る南健司監督は過去に、トリックプレーを紹介するDVDを発売するほど。

 南監督は、高校サッカーからトリックプレーが生まれやすい理由についてこう話す。

「Jリーグになると、センターバックなどに180cm以上の選手が必ずいるので、セットプレーで勝つことができます。ただ、高校サッカーの場合はそうした選手がいない年もあります。シンプルにクロスを上げても、相手にたとえば今大会の尚志(福島県)のチェイス・アンリ(187cm)のようにヘディングの打点が高い選手がいたら、絶対に勝てないんです。そうした状況で、何としてでも点を取るための手段がセットプレーなんです」

 トリックプレーのポイントは、相手の"視線"か"タイミング"をずらすことだという。立正大淞南の場合は、"視線"をずらすケースが多い。タネを隠すためにほかの場所に注意を引きつける、マジシャンの行動を浮かべてもらえばわかりやすいかもしれない。一方で"タイミング"をずらすのは、ショートコーナーが代表例だ。

 今回、高川学園が披露したトルメンタは、「視線とタイミングを外す両方を備えているのが特徴」だと南監督は話す。また、これまで類がないトリックプレーであるため、「これはなんだ?」と相手の気持ちを錯乱させる効果もある。さらに南監督は「回っている洗濯機を見てしまう人間の習性をうまく利用できている」と、トルメンタの利点を挙げる。

 トルメンタは指導者が考えたのではなく、選手主体で考えた意味も大きい。

「トリックプレーが成功すると、選手はほかのトリックも考えるようになる。これだけ世界中に広まったら、高川学園の選手は『次は何しよう?』という思考になるでしょう。サッカーだけに限らず、社会に出てからも活きる成功体験になります」(南監督)

 弱者が強者に挑んでいくのが高校サッカーの魅力である。戦力が劣るなかでも、勝ちたいと策を練る者がいる限り、高校サッカー発のセットプレーは生まれ続ける。今回のトルメンタに刺激を受けて"俺たちも"と頭を捻るチームもすでに出てきているはずだ。

 準決勝と決勝の残り3試合となった今大会だけでなく、来年度の第101回大会以降でも、観る人をワクワクさせるトリックプレーが生まれるだろう。

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