奇抜なセットプレーの本家が高川学園の「トルメンタ」の利点を解説。「人間の習性をうまく利用できている」 (2ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi
  • 高橋 学●撮影 photo by Takahashi Manabu

【トリックプレーは今回が初めてではない】

 相手が警戒を強めれば、"やらない"選択肢もトリックとなる。3回戦の仙台育英(宮城県)戦は、トルメンタをうまく利用して、ゴールにつなげた。前半終了間際の右CKでは、PA内に5人バージョンのトルメンタの陣形を組んだ。相手がゴール前へのクロスを警戒するのに対し、高川学園がとった選択肢はゴール前から近寄ってきた選手へのショートコーナー。ゴールにはならなかったが、慌てて身体を寄せた2人を引き寄せ、ゴール前を手薄にできた。

 相手に「何をしてくるかわからない」と思わせることができれば、こっちのものだ。後半34分にはシンプルなCKからDF岡楓大がヘディングシュート。39分には縦に並んだ4人の選手が一斉に散らばる別のトリックプレー、40分には6人バージョンのトルメンタと手を変え、品を変え、ゴールを狙い続けた。

 40+3分にシンプルな左CKのこぼれ球をMF西澤和哉が決められたのも、そうした作戦で相手をかく乱できたからだ。試合後、江本孝監督は「相手もセットプレーを警戒してきていると思ったので、逆にオーソドックスなセットプレーでもよかった」と口にしている。

 準々決勝の桐光学園(神奈川県)戦で西澤が決めた決勝点も、3人が手をつないで輪となり、トルメンタをすると見せかけてからシンプルにCKを合わせにいった形だった。

 世界中で話題となった高校サッカー発のトリックプレーは、今回が初めてではない。思い返されるのは、6年前の選手権決勝で東福岡(福岡県)が披露したFKだ。キッカーの目の前に壁役として4人の選手が立ち、蹴る直前にジワリジワリと下がっていく。相手が目を奪われている隙を突いて、直接ゴールを狙う形で実際にゴールも奪った。これをイギリスの「デイリー・メール」紙が"ダンシングウォール"と名づけて、記事にしている。

 このトリックプレーは、東福岡がその年の夏にインターハイで対戦した立正大淞南(島根県)に仕掛けられたプレーだった。

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