高校サッカーで何が起こっているのか。選手権に初出場はわずか2校。常連、強豪を破ってつかんだ取り組み (2ページ目)

  • 森田将義●取材・文 text by Morita Masayoshi

 今年のチームも決して前評判が高いわけではなかった。それどころか、「今年の代は手応えが全くなかった。(地区予選を勝ち抜き)県大会にも出られないぞと言っていました」(伊藤監督)。普段戦うリーグ戦は県3部で、上位校と実力の差は明らか。夏のインターハイ予選も、初戦敗退で終わっていた。

 転機となったのは10月上旬に行なった東邦高Bとの試合だった。うしろからつないでくる相手に対し、前線からの守備で圧倒し、相手のシュートを1本に抑えた結果、3-0で勝利。スタイルに手応えを感じて、選手権予選に挑めた。

 大会が始まると、3回戦から決勝までの4試合はすべて県1部リーグに所属する格上ばかり。主将のMF大嶽匠矢は「正直、技術の部分では差を感じた。刈谷さんとか、名古屋さんもそうですけど、本当に試合中でも『あ、うまいな』って思いながらやっていた。でも、走りのところでは負けていないと思いました」と振り返る。力の差は、週に1度行なう坂道ダッシュで身につけた走力と精神力で埋め続けたという。

 伊藤監督は「みんなが下手だと自覚しているところが我々の強み」とも口にする。

「今年の強みは、誰もサボらないこと。サッカーをみんなが楽しんでいて、試合前に緊張している人はいない。失う物は何もなかった。メンタルの部分は、1部のチームにとって僕らは格下という気持ちがあると思う。そうなると相手は負けられない気持ちがあると思うのですが、僕らは3部で失うものがない。そのへんで楽にプレーできた」。そう大嶽も続けた。

「元Jリーガーとは思えないほど気さく」と口にする選手がいるほどフレンドリーな伊藤監督の下、ピッチ外では笑顔が絶えないチームだが、いざ試合が入るとスイッチが入り、戦う集団へと変貌を遂げる。標榜するポゼッションサッカーはできなかったが、泥臭く戦うスタイルで予選を無失点で終え、初出場を掴んだ。全国の舞台では初戦で優勝候補の一角である大津(熊本県)と対戦するが、格上に挑む構図は予選同様。選手はひと泡吹かせようと意気込んでいる。

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