浦和レッズが今季前進できたわけ。大胆な選手入れ替えの裏にあったベテラン選手たちの献身

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 前半29分、左サイドからペナルティアーク左へと走り込んだ背番号3が、MF明本考浩が落としたボールを右足で鋭く叩くと、「ゴールまでの軌道が見えた」というシュートは、糸を引くようにゴール左下へ飛び込んだ。

 スペイン人指揮官も「貴重な1点目」と評した、値千金の先制ゴールだった。

 今季新たに浦和に加わった選手が数多くピッチに立ったという事実は、裏を返せば、長年チームを支えてきた選手が出場機会を減らしたことを意味している。今季を最後に引退を決めた阿部勇樹をはじめ、契約満了で浦和を去る槙野智章、そして宇賀神もそのひとりだ。

「ピッチに立つ時、自分を契約満了にするという決断をした人たちを見返してやる気持ちだった。なんでそういうことを言うんだと言う人もいると思うが、そういう気持ちがゴールに乗り移った」

 そう語り、確信犯的に毒づいた宇賀神だったが、一方で「正直なところ、(J1最終節の)名古屋戦で、ピッチの上での役割は終わったんじゃないかという気持ちがあった」と言い、こうも話している。

「来季を見据えてこのトーナメントを勝ち抜くことは、浦和に残る選手には貴重な経験になり、ここ(天皇杯優勝)をつかみ獲ることで選手として計り知れないほど成長できる。正直、今週練習するなかで、(自分が)スタメンで出ることがあるのではないかと思った時、『僕じゃないんじゃないですか』と監督に話をしに行こうかと悩んだ」

 おそらく、こうしてチームを最優先に考えられる経験豊富な選手がいたからこそ、今季の浦和は大胆すぎるほどに選手を入れ替えてもなお、確実な前進を印象づけるシーズンを送ることができたのだろう。

 後半61分、宇賀神が交代で退くとき、本人でさえ「12年間で初めてじゃないか」と言うほどの、まさに万雷の拍手が送られたのは、この日の先制ゴールだけが理由ではなかったはずだ。

 そして試合終了目前の後半89分、ダメ押しの2点目を決めたのは、奇しくも今季新加入のMF小泉佳穂だった。チームを去る先輩からチームに残る後輩へ、あたかもバトンがつながれたかのような劇的な2ゴールが、浦和に勝利をもたらした。

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