小笠原満男が教えることから距離を置いていた理由。「教科書どおりじゃない選手のほうが面白い」 (3ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko
  • photo by Aflo

 育成制度が整理され、指導者もさまざまな手段で世界中の指導法や最新の戦術などに触れる機会が増加した。それにより、選手の能力の平均値は向上したに違いない。けれど、小笠原がいう強い個性を持った選手は減ってしまったのかもしれない。

「Jリーグが始まったのは僕が中学2年くらいのとき。子どものころにはプロもなかった。ただサッカーが好きでずっとやりたくて、『ブラジルへ行けばプロになれるかな』くらいの知識しかなかった。僕らの世代はプロになりたいから頑張るんじゃなくて、本当にサッカーが好きで、あいつに負けたくないとか、試合に勝ちたいから、必死になってサッカーをしていただけだった。

 でも今はプロが身近にある。だったらもっと頑張れと。プロはそんなに甘くはないけれど、ユースの選手なら、あと一歩なのだから。『もっと本気で取り組もう。姿勢や気持ちは100パーセントなのか?』といつも問い続けています。『お前の100パーセントと大迫勇也、柴崎岳、鈴木優磨の100パーセントは全然違うぞ!』と話すだけでもメッセージは浸透していく。問答無用で、言い返させない。そういう成功した選手の話をしてあげられるのも僕のメリットだと思うので。後輩たちの名前を使ってうまくやってます(笑)」

 数多くのタイトル獲得に貢献してきた現役時代の小笠原の存在感の大きさをここで説明するまでもないだろう。タイトルから遠ざかる現在のトップチームへの小笠原復帰を望むファン、サポーターの声もあるが、現在の小笠原のモチベーションは、アカデミーからトップチームのスターとなる別のところにある。

「今は、とにかくアカデミーの選手を上へつなげたい。トップチームにいる土居聖真や町田浩樹、永木亮太たちには、これまでいろんなものを伝えてきた。だから、今はプロを夢見ている子どもたちに、自分の経験を伝えて、トップのピッチに立たせてあげたいという想いが強いし、その仕事にやりがいを感じています。

 夢見てる子たちって、かわいいじゃない。目がキラキラしていてさぁ。その子たちが、プロになってから、プロを感じるんじゃなく、より早くプロというのを知ってもらいたい。僕が『こういうふうにしておけばよかった』と思うことを教えてあげたい。リュックにアントラーズのキーホルダーをつけていたり、リストバンドしてボールパーソンをやっていたり。小さいころから、アントラーズを見て育ってきた子どもたちをカシマスタジアムのピッチに立たせてあげたい、立ってほしいなという希望や理想があるんです」

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