J1残留を争う湘南ベルマーレ山口智監督。足りないのは「遊び心みたいなもの」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

「単純に負けなしと評価してもらったのはうれしいですが、守備をして終わりじゃない。その守備が何のためにあるのか、何をしたいがために守備をするのか、その意識が大事なんです。勝てなかったのは、守備の割合が多くて、その先どう攻撃するのか、どう点をとるのかという目線が足りなかったんだと思います」

 前線は守備がきいていいリズムでサッカーをしているが、決定機を決められず、それを繰り返すうちに後半、守備の強度が落ちてやられてしまう。第30節の川崎フロンターレ戦、第31節の横浜F・マリノス戦は、まさにそうで、もったいない試合が続いた。

「パワーを使う守備なので、その使い分けが一番難しくて、今も苦しんでいます。もっと要領よく守れるといいんですが、後半になると体力的な限界もあり、迷いや詰めの甘さが出て、失点してしまう。攻撃面でもボールを奪ったあと、どうするのかというところで迷ってしまう。そこは、うちの大きな課題ですね」

 湘南の攻撃といえば、奪ったあと、すばやく前に展開し、一気にフィニッシュまでもっていくのが大きな特徴だ。だが、相手のプレッシャーや時間帯によっては、前に行けないケースもある。

「その時にどうするかですよね。奪ったボールをチームとして、どこに運んでいくのかは、そのひとつ前の準備の時から選手に要求しています。それをあやふやにするんじゃなくて、こうするんだという覚悟を持ってプレーしてほしいと思います」

 縦への攻撃ができない時、中盤でボールを回して、相手の隙を伺いながらテンポを変えて攻撃することも必要になる。強いチームは、そうしたメリハリと変化のある攻撃ができている。

「うちももっとボールを持ってもいいと思うけど、持つのが怖いんでしょうね。長い時間、守備をしてマイボールにしたのに3秒で相手のボールになることもあります。でも、怖がらずにやればできると思うし、もっとやっていきたいので、追及していきたいですね」

 現役時代、山口は主としてガンバでポゼッションスタイルの超攻撃的なサッカーで相手を圧倒し、タイトルを獲ってきた。攻撃的なスタイルを標榜しているのは今の湘南もそうだが、ガンバから来た時、山口は、両チームの違いを感じたと言う。

「湘南の選手は、いい意味で真面目すぎる(苦笑)。先手をとるために、どんなポジションをとればいいのか、どうボールを動かせば相手は嫌がるのか、どんなところにボールを出されたら嫌なのか、そういう意識や発想を含めた遊び心みたいなものが足りないですね」

 山口がガンバでプレーしていた時代、遠藤保仁らのプレーには遊び心があり、それがチームの余裕にもつながって、いいプレーをさらに生み出す源泉になっていた。

「遊び心を生み出すためには、ミスを恐れないこと。うちの選手はミスをするとナーバスになってしまう。ミスすることを怖がって自分たちでできることを自分たちで制限してしまう。サッカーはミスのスポーツなので、僕はミスをするなとは言わないです。ミスを恐れずに、ダイナミックにプレーをすれば、自分のプレーに余裕が生まれてくるんですよ。そこから遊び心が生まれてくるし、それができればもともとある真面目さというのがより活きて、いいプレーがもっとできると思うんです」

 山口が湘南とガンバとの違いを感じたのは、選手のカラーだけではない。ホームの横浜FC戦で熱い応援をしてくれたサポーターの違いも感じている。

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