V目前、川崎の危機を救った新人MFは、伝説のフランス代表を彷彿とさせる

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 佐野美樹●写真 photo by Sano Miki

 シミッチより優れているとは、筆者の感想だ。シミッチがどっしりと構えるボランチであるのに対し、橘田は軽い。しかし、その軽さはネガティブな要素には映らない。キビキビとしたシャープな動きに見える。

 ボールは橘田を経由すると、軽快さが乗り移ったかのように、すいすいとケレンミなくチーム全体に波及していくのである。もっさりとした動きのシミッチからは、生まれ得ないリズム感が誕生するのだった。それが川崎の成績に直接的に反映していると筆者は見る。川崎の危機を救った立役者といっても過言ではない。

 何と言ってもミスが少ない。飄々と、慌てた様子なく静かにプレーする。人が混雑した密集地帯でうまさを発揮するタイプだ。相手をすり抜ける感じは少しばかりアンドレス・イニエスタ的だが、もう少しイメージが近いのは、その昔、フランスの4銃士のひとりとして世界を沸かせたジャン・ティガナだ。

 82年のスペインW杯ではミシェル・プラティニ、アラン・ジレス、ベルナール・ジャンジニ、86年メキシコW杯では、プラティニ、ジレス、ルイス・フェルナンデスとともに中盤を構成。当時の世界のサッカーファンを虜にしたアフリカ系の選手だが、そのティガナの細身で華奢な体格(身長は橘田と同じ168センチ)、そしてボールを捌くシルエットと橘田の動きは似ている。どこか懐かしさを感じさせる選手なのだ。

 いい意味で力感が伝わってこない選手である。最近、日本ではプレーに強度を求める風潮がある。ない物ねだりも加わるのか、守備的MFには特にそれを求める傾向があるが、橘田を見ていると別の考え方もあるのではないかと言いたくなる。要はバランスなのだが、ひとつの考え方に陥るのはよろしくない。シミッチに代えて、小柄な橘田を4-3-3の1ボランチとして起用する決断をした鬼木達監督を称えたくなる。

 川崎がこのまま優勝すれば、橘田は新人賞に値すると考える。思いきって日本代表に選んでも面白いと思う。

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