王者川崎で新風を巻き起こすシンデレラボーイ。その稀有な経歴とは? (4ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 冒頭でつづったように、自身の人生を振り返り「無駄なことはひとつもない」と語ってくれた背景には、Honda FCで過ごした3年間での成長と、ここで『待てない』と本心を伝えた決意にもあるのだろう。

「本当にここで決断して、福岡に行ってよかったと思っています。プロキャリア初の1年間で40試合も出させてもらって、数多くの経験をさせてもらいました。J1昇格という目標も達成でき、大きな自信になりました」

 2020年12月16日の愛媛FC戦(J2第41節)では、福岡をJ1昇格へと導くゴールを挙げた。遠野はチーム最多11得点を挙げ、まさにJ1昇格の立役者になった。

「愛媛戦を含め3試合連続でゴールを決めることができたのですが、実は(第30節の)ジュビロ磐田戦からずっとゴールを決められていなかったんです。試合に出してもらっても結果が残せず、シゲさん(長谷部茂利監督)からは『ふたケタ得点しないと、フロンターレに行けないからな』ってハッパをかけられていたんです。自分としてもふたケタは取らなければと思って、それを言われた直後のツエーゲン金沢戦(J2第39節)から3試合連続でゴールを決めて、目標のふたケタに届いたんです」

 福岡に在籍している時から、自身の強みであるゴールを目指すとともに、川崎でのプレーをイメージして「立ち位置を意識していた」と教えてくれた。

「福岡と川崎ではシステムも違いましたが、相手を見ながらプレーすることもそうですし、相手のボランチとCBの間でボールを受けてサイドに展開することも意識していました。Honda FCでも止めて蹴るという部分に練習からこだわって、培ってきたことが今に活きていると思っています」

 高校を卒業した時、プロになれなかった、いやプロすら意識していなかった青年が、4年間でJ1王者の一員になった背景には、「ひとつも無駄にしなかった」という確かな軌跡があるのだろう。

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