王者川崎で新風を巻き起こすシンデレラボーイ。その稀有な経歴とは? (2ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 リーグ戦19試合を終えて14試合で4得点。「どのポジションからでもゴールを取れるところが自分の強み」と語るように、連覇を目指すチームに新風を巻き起こすシンデレラボーイになっている。

 というのも遠野は、育成や発掘が整備されつつある近年において、希有な経歴の持ち主だからだ。

 22歳の彼は、チームメイトで言えば田中碧と同学年。田中が川崎のユースから昇格し、ひとつ年上の三笘薫や旗手怜央が大学時代から名を馳せていたことを考えれば、遠野は苦労人だ。まさに階段を駆け上がり、J1王者の一員になった。

 静岡県の藤枝明誠高校では、3年時に選手権に出場。だが、Jリーグのクラブから声がかかることはなかった。

「プロになることはまったく意識していなくて。当初は大学でサッカーを続けられればいいな、と考えていたんです」

 ところが、同じ静岡県を拠点とするJFLのHonda FCからオファーがあった。

 J1から数えれば4部相当でアマチュア。Honda FCは実業団のため、学生でもなければプロでもない。社会人としてサッカーをすることになる。親をはじめ周囲に相談した結果、最終的には「サッカーをやるならば、少しでもレベルが高い環境がいい」と考え、遠野は2017年にHonda FCへ加入した。

「今思えば、そこが人生の分かれ道だったと思います。友人にも『大学に行かず、ホンダに行ってよかったな』ってよく言われますから」

 朝8時に出社し、12時までほかの従業員とともに働くと、昼食を食べて14時半から17時までサッカーの練習を行なう。いわば「8−5時」という社会人の生活が始まった。

「最初は仕事もわからないことだらけでしたけど、わからなくて当たり前。だからもう、やるしかない感じでしたね。たくさん怒られました。社会人としての礼儀もそうですけど、高校を卒業したばかりで常識もなかった。たくさんのことを教わり、そのおかげで今があると思っています」

2 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る