イニエスタのショータイムを勝利に結びつけるには、神戸に何が必要か (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 体を当てるうまさも熟練で、巧妙にファウルを誘った。セットプレーの崩れでは、何気なく左足のダイレクトでラインが上がる瞬間にゴール前へ入れる。そのスキルとビジョンは並外れていた。

 極めつけは76分だった。相手のボランチの脇でボールを受けると、自陣からタイミングを計りながら、糸を引くようなパスを古橋に通した。左足のシュートは惜しくも枠を外れたが。

 イニエスタは流れを神戸に引き寄せていた。彼自身が戦術軸だった。プレス云々の話など意味がないほどに、だ。

「(神戸は)自分たちがボールを持つことによって、アドバンテージを作れる」

 かつて、神戸を率いたスペイン人指揮官、フアン・マヌエル・リージョ(現在はマンチェスター・シティのヘッドコーチ)はそう説いていた。

「特に、我々にはアンドレスという唯一無二の選手がいる。彼はまるで、サッカーそのもののような選手だ。何が優れている、というレベルではない。チームとして、彼が最高のプレーができるか、を突き詰めるべきだろう。とにかく、ボールが行ったり来たりするような展開にしてはならない。アンドレスを走り回らせるのは無意味で、勝利には結びつかないだろう」

 その言葉は、今も変わらぬ真理だ。

◆中村憲剛×佐藤寿人「日本サッカー向上委員会」。本音炸裂です

 1-0のまま、神戸はチャンスを得点に結びつけることができず、代償を払うことになった。ビルドアップのミスから自陣でボールを失い、追加点を放り込まれた。これで万事休すだった。

 イニエスタは、この日の敗北をどのように受け止めたか。

 プレスはひとつの手段であって、目的ではない。イニエスタがピッチに立っても立たなくても、それは変わらないだろう。神戸はボールプレーの攻防で勝ち切れず、ゴール前での仕事の質で敗れたのだ。

 イニエスタは温和そうな見かけによらず、負けることを著しく憎む。バルセロナという常勝軍団にいたことで、負けることに慣れていないこともあるだろう。「連敗しないようにしよう」とは言わない。「連勝しよう」と彼はチームメイトに求めるのだという。勝ち続ける精神をチームに植え付けたことで、各自の成長を促し、代表クラスの選手も出るようになった。

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