サガン鳥栖は戦力差をものともせず。スペクタクルにスター選手はいらない (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

 鳥栖は、その場に適応する"撓(たわ)み"を見せていた。局面でしつこく戦うのはベースだが、それぞれの選手の立ち位置が鍛えられ、それによって連続的に攻守でアドバンテージが取れていた。崩れそうで崩れず、ボールを奪い取った後は猛然と、整然と襲い掛かった。

 前半30分過ぎ、2点目への"前触れ"も一例だろう。

 鳥栖はバックラインからボールをつなぎ、左センターバックの中野伸哉がタッチラインぎりぎりに立ってボールを呼び込む。これで幅を作ると、相手を引き寄せて中を広げる。そしてすかさず中央の仙頭啓矢へパスし、仙頭は中央に見えたラインにスルーパスを流し込み、酒井が走り込んで相手DFと接触。PKになってもおかしくない抜け出しで、論理的に戦線を破っていた。

 この直後、敵陣でつなぎにもたついたFC東京の中盤で、FW林大地が精力的に戻ってボールをつつく。ショートカウンターを発動させ、パスを受けた樋口がドリブルで2列目を軽快に越え、右足を振る。ゴール左に突き刺さる一撃だった。

 後半になると、FC東京は布陣も変更し、前から押し込んでいる。セットプレーをいくつも勝ち取り、そのひとつを森重真人がヘディングで豪快に決めた。レアンドロなど交代選手の差も出て、一気呵成になりかけたが、鳥栖は全体が下がり切らず、最後はパワープレー対策で田代雅也を投入し、粘り強く守った。

「1点決められて、受け身になってしまいました。2-1で逃げたい、という気持ちがどっかで生まれて、プレスが甘くなり、余裕をもってボールを回されてしまいました。マネジメントには課題が残ります」(鳥栖GK・朴一圭)

 鳥栖の選手たちは、先を見据えているのだろう。その志は高い。今シーズンの台風の目だ。

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 金明輝監督は、暫定監督時代からこうした攻守一体の戦いを視野に入れてきた。昨シーズンも能動的にボールを動かし、取り返せるプレーモデルを試行錯誤。今シーズンはそこに適応できた選手と、革新させられる素養を持った選手を獲得し、短時間でレベルアップさせた。開幕戦では左ウィングハーフでノッキングしていた酒井をトップにコンバートするなど、マイナーチェンジも成功させている。

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